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 残された女性の方は呆然としている。女性の大声に一度立ち止まった通行人が、(なんだ、痴話喧嘩か)と、彼女を避けて歩いた。女性はしばらく立ち尽くしていたが、ヨロヨロと歩道の隅に移動する。そしてやおら、着ていたコートを脱ぐと、丸めて近くの植え込みに押し込んでしまった。東堂とは反対の方向へヒールの音を響かせ行ってしまう姿は何かを吹っ切ろうとする寂しさが滲んでいた……。  一部始終を見た沙織は、 「ね、見た?」 と、光輝の肩を叩いた。 「うん。激しめなひとだったな」 と、返して、光輝は周りを見回した。隣で話していたはずの沙織がいなくなっている。一体いつのまに?! キョロキョロしていると沙織が戻ってきた。 「そのコート、東堂と一緒にいたひとが着てたのだろ!」  植え込みから引っ張り出してきたのか。見覚えのあるコートを着て、沙織がくるりとターンする。
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