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「見て。サイズぴったり! これブランド物だよ? まるで私へのプレゼントみたい」
光輝はため息をついて沙織の額にピシリと、手刀を当てた。沙織が「うっ」と切られたふりをする。
「落とし物だろ。警察に届けるべきだ」
腕組みして言う光輝に沙織は項垂れた。
「落とし物じゃないよ。明らかに捨ててたもん。あのひと、どうせ戻ってこないよ。それでも……ダメ?」
「ダメだ」
光輝がキッパリと言う。「全く、真面目なんだから」と沙織は恨めしそうに光輝を見た。それでも何か言いたげにしている沙織に顔をしかめていると、「じゃあ、感想聞かせて」と下から覗き込んできた。
「似合ってる?」
柔らかなベージュのコートは確かに沙織に似合っていた。襟のさりげないブランドのロゴマークのいかにも感の少なさが、若い沙織には丁度いい塩梅だ。でも、人のものを着て似合うところに光輝は引っかかるのだ。
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