ポケットの中の忘れ物

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 電車を乗り継ぎ、加藤と二人、かつて住んだ町に降り立つ。  適当に歩いて適当な路地に入り、目についた店舗跡の前で立ち止まった。 「ここにあったはずなんだけど、もう閉めてしまったみたいだ」 「ここにこのコートを買った古着屋があったのか? ……嘘だね」  ああ嘘だ。買った店がなくなっているなら、他の古着屋に売りに行けばいいと思った。ポケットの中に、俺の罪の痕跡が残っているかもしれない。すぐに買い取って、自分の手で中身を確かめてから処分する。早くそうしたいのに”嘘”だなんて、俺は加藤の言葉にイラついた。   「……ずいぶん前の事だから。違ってるかもしれないな。別の古着屋に売りに行こう」 「また、騙すのか」 「……いや、今度はちゃんと言うよ。”瑕疵あり”だってね。いや、お祓いすればいいんじゃないか? そうすればお前にも何も起こらない」 「違う、そうじゃない。無駄だよ。俺はもう、ぜんぶ知ってるよ。ほら、ポケットに手を入れろよ」  加藤は言うが早いか、俺の手を掴んで自分の着ているコートの右ポケットに突っこんだ。  体中がゾッとした。手がある。生暖かい手が、俺の手を握りしめた。
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