ポケットの中の忘れ物

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 彼女とは校舎の屋上で別れ話をしていて、軽くもみ合いになった。ペアリングを付けていて欲しくなかったから外させた。俺はそれをポケットに入れて、立ち去ろうとしたら追いすがって来た。  軽く押しただけだったのに彼女は3歩も4歩も後ずさり、それどころか、自ら手すりも越えた。そして指輪を返してくれなきゃ飛び降りると言った。  わざとらしくて鬱陶しかった。俺は指輪を放り投げるふりをして、またポケットに突っ込んだ。だが、彼女は反応していた。  空に伸ばした手は落ちていく途中、柵からはみ出た俺のコートの端を掴んだようだが、スルリとちから無くすり抜けて見えなくなった。  一瞬のことだった。手を取るなんて到底無理な話だ。    ポケットの中に指輪なんてない。あったかもしれないが、今あるのは生暖かい手だけだ。  身がよじれるほどの怖気が全身を覆い、頭が変になりそうな中で、ふと、硬いものが指に触れた。    ——あった。……指輪だ。  考えようによってはこれでいい。  あの時の、俺のとった些細な行動は誰にも知られるわけにはいかない。  俺の手をポケットの中でやんわりと握る手——強く握り返してやった  すると、意識の中に言葉が浮かんできた。 『ずっと一緒にいようね』
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