新説:異界エレベーター

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結局、私は投稿者本人に逢う事は叶わなかった。 何故なら、今日の朝――メールを送った直後から、連絡が取れなくなっているらしい。 (もしかして……投稿者も、異界に繋がるエレベーターとやらに乗って、異界に行ってしまったのだろうか……?) 私は、投稿者からの――恐らく最期であろうメールが表示されているパソコンの画面を見つめながら、そっと溜息を吐いた。 (本当に、異界なんてあるのだろうか……?) そんな事を考えながら、痣の増えた腕を擦る私。 (……異界に行ったとして……投稿者と剛志君とやらの苦しみは消えたのかしら?) ――いや、それは愚問だ。 なんせ、父親であったり、同棲相手という、謂わば逃げられない――苦しみを生み出す製造機から離れられたのだから。 少なくとも、肉体的な痛みからは解放されている筈だろう。 無論、異界に着いた2人がその後どうなったのかは分からないが。 (でも……この終わらない苦しみから逃れられる方法があるのなら、私も……) 私は、そっと手を伸ばすと、デスクに飾られていた写真に触れてみる。 そこには――幸せそうな笑顔を浮かべる私の彼氏と、まるでマグショットを撮られている犯罪者の様に強張った表情を浮かべている私が写っていた。 そんな写真と、ノートパソコン……それにスマホ等を鞄に乱雑に詰め込むと、徐に席を立つ私。 そうして、私は「外出ですか?」と問う同僚に、笑顔で頷いてみせる。 「これから、異界に繋がるエレベーターの取材に行って来ます」 ――窓の外では、剛志君とやらが失踪した時と同じ様に、白い雪がひらひらと空を舞っていた。 「今夜は、クリスマスイブね」
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