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今までは剛志君を父親がいない子にしない為、剛志君のお母さんはお父さんのどんなに理不尽な仕打ちにも耐えていたようでした。
ですが……皮肉にも、剛志君がいなくなったことで、お母さんはお父さんの元から逃げ出す決意が出来たようです。
そうして、あれから20年以上経った今。
当然の事ながら剛志君は、まだ見つかっていません。
――果たして、彼は本当に異界に辿り着けたのでしょうか。
そこで、幸せになれたのでしょうか……?
私には、それを知る術はありませんでした。
【今日まで】は。
私事になりますが……実は私は、先月から同棲を始めました。
そして、自分が彼らと同じ立場になってみて――やっと、剛志君や彼のお母さんが味わっていた痛みや苦しみが、心から理解出来る様になったのです。
剛志君の異界への逃避――。
それが、彼を……延いては彼のお母さんを、辛い現実からの解放に向かわせたのは、今でも本当に苦しい――特に、剛志君のお母さんにとっては皮肉な事だと思っています。
けれど……それでも。
どんな形であれ、あの歪んだ父親が支配する現実から解放された事は、彼らにとっては寧ろ、『救い』だったと言えるのではないでしょうか。
何故なら――前述した様に、【今の私】には、それがしっかりと理解出来るし、共感も出来るからです。
……だからこそ、今日。
私は、もう一度――あの13号棟に行って、確かめてみようと思っています。
異界が本当にあるのか。
其処に剛志君は居るのか、を。
そして、もし……異界で、また、剛志君に逢う事が出来たなら。
私は、どうしても彼に伝えたい事があるのです。
それは――。
「あの時の君の選択は間違っていなかったよ」
と、いう言葉。
幼過ぎたあの時の私には、まだ何も分かっていなかったけれど。
今の私には分かるんだ。
きっと、あの時はああするしかなくて――ううん、ああする事が君の最善だったんだよね、と。
そうして、異界に辿り着いたら、恐らく私は――。
なので、これは、きっと――こちらの世界にいる私が遺す、最期の手紙になることでしょう。
霊等は一切出て来ない上、到底信じ難く……支離滅裂な部分もあるかと思いますが、ご興味をもっていただけたら幸いです。
PS:
どうか、この話を御社の雑誌に掲載して、異界へ繋がるエレベーターを呼び出す方法を広めていただけます様、お願い申し上げます。
こちらの世界で居場所が無くて、苦しんでいる……私の様な人間の為にも。
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佐藤
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