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その日から更に数週間後の放課後のこと。
廣瀬さんの誘いで、私たちはモルタル公園を訪れていた。
モルタル公園とは、団地内にありながら屋根の無いタイプのちょっと変わった公園で、H型に建つ団地のちょうど中央の部分に建設されていた公園の事だ。
大人達曰く、
「町内の公園だと人も多くて目も届きにくいけど、此処は人が少ないから、直ぐに自分の子供が分かる。何より、団地の中にあるので、もし目を離していてもそうそう大きな事件なんて起きやしないだろう。声も掛けに行きやすいし、安心な公園だ」
と、いうことらしい。
ちなみに、この公園があったのは、真知子ちゃんが住んでいる団地の5階で――実は、廣瀬さんが事故に遭う前は、私達もよくこの公園で遊んでいた。
だが、廣瀬さんの事故で、私も真知子ちゃんもすっかり遊ぶ元気を失くしてしまい、最近は殆ど足を運んでいなかったのである。
そんなこともあり、久しぶりの公園にはしゃぐ私達。
が、不意に私は――『あること』に気が付いてしまった。
それは、不意に強い風が吹いてきた際に感じた、些細な違和感。
その時、私はちょうど風下、廣瀬さんは風上に居たのだが――廣瀬さんの方から吹いてきた風が、異様に臭いのだ。
まるで、食べ物や――生き物が腐った時のような。
何とも形容し難い腐敗臭がするのである。
事故に遭う前は、いつも『自分がどう見られているか』には敏感で――時には、母親から勝手に拝借したブランドものの香水をつけてくる位にお洒落でもあった廣瀬さん。
……髪形も服装も持ち物も、全てが事故前の彼女と何ら変わったところはない。
表情も仕種も、全部が事故前の彼女のままだ。
しかし、そんなお洒落で綺麗で可愛らしい――人形の様に愛らしい彼女から、今、生物としては有り得ない程の腐臭がしているのである。
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