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「……助けて……優子ちゃん……」
真知子ちゃんが呻くようにそう告げた瞬間――。
自身と繋いでいた手を振り解くや、背後からぴょんと……勢いよく真知子ちゃんにしがみつく廣瀬さん。
彼女はそのまま、両手両足を真知子ちゃんの上半身に絡み付かせていく。
指も爪も異様に伸びた廣瀬さんの手足は、まるで死者のソレであるかの様に、血の気のない紫色をしていた。
――先程までは、確かに普通の肌の色で、普通の手足をしていたというのに。
全てが、おかしい。
焦りながらも、異常な状況への恐怖と混乱から、真知子ちゃんの手を掴んだまま動けなくなる私。
そんな私に、廣瀬さんがふわりと微笑みかけてきた。
以前と変わらず、花の様に可憐な笑みを浮かべる廣瀬さん。
しかし、彼女の桜桃の様に愛らしい唇が放ったのは、とても恐ろしい言葉だった。
「渡さない渡さなイ渡さナイ渡サナィイイイイイ。……こノ事ハ誰ニも話したらダメヨ。バラしたら、直ぐに迎えに来ルカラネ。ネェ、絶対ニ秘密ダヨ?」
生臭い腐臭を吐き出しながら、そう告げる廣瀬さん。
次の瞬間、真知子ちゃんにしがみついたままの廣瀬さんが、『わざと』大きく体を仰け反らせた。
途端にバランスを崩し、真知子ちゃんはそのまま背中から地面に落下しそうになる。
私は咄嗟に、掴んだままだった真知子ちゃんの手を引っ張った。
と、そんな私の手を乱暴に払い除けてくる、異様に長く伸びた廣瀬さんの手。
その手は、まるでミイラのように細く、からからに干乾びていた。
同時に、振り払った衝撃で、廣瀬さんの爪がかなり深く私の右の頬を抉る。
が、そんな事は気にせず、真知子ちゃんに手を伸ばす私。
その私の目の前で――真知子ちゃんはモルタル公園から落下し、無残にも地面に叩きつけられ、絶命した。
後で聞いた話によると、真知子ちゃんの遺体に絡みつくようにしがみついていた廣瀬さんの遺体は、なんと死後数週間が経過していたらしい。
というのも、そもそも廣瀬さんは――飛び降り自殺に巻き込まれていたあの日に、即死していたのだそうだ。
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