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「えっ」
冷やっとした感触。とっさに手を引き抜こうとした。中身が見えない箱の中に手を突っ込んで、何が入っているのか探っていたのに、ふいに何かに触れてしまった恐怖のようなもの。
ポケットの中に何かが入っていた?ボタン?
そう思ったか思わないかの間に、私の頭は真っ白になった。
ポケットの中の左手を強く掴まれたからだ。
「え、いや、なに」
声が上ずる。
ポケットの中に手?私の手以外に、手が入ってる?
なにそれ、気持ち悪い。
引き抜こうとするが引き抜けない。
左側のポケットが、みるみる膨らんでいくような錯覚まで起きている。
「やだ、気持ち悪い、離して、抜けない」
着たままだと、肩回りの生地が突っ張ってしまって、勢いをつけて引き抜けないんだと、初めて知るが、それどころではない。
右ポケットに入れていた右手を引き抜いて、左手首付近に添えて引っ張ってみる。
膨らんだ左ポケットの口部分が、宇宙の深淵の入り口のような闇色に変わっている。
冷気がポケットから流れ出てきた。
左手を掴んでいた何かの手が、じわじわと這い上ってきていた。冷たさが手首を掴み、添えていた右手に触れる。
「ひっ・・・」
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