交換ポケット

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 掴んできた手の甲にはひとつ目が張り付いていた。私と目が合った。ニヤリと笑われたと思った。目しか見えていないのに、ひどく凄惨な笑みだと思った。  目が飛び出てきた。眼球が飛び出てきたと思ったが、黒髪の頭が現れ、二つ目の目が現れ、鼻、口、顎、首、肩・・・と湧き上がるように人の姿を成していく。顔色の悪い女性になっていく。  悪夢を見ているとしか思えない。ホラー漫画なんて目じゃないくらいのグロテスクなことが起きている。現実のわけがない。  夢なら覚めて。  瞬きできず見開いた目から涙が流れ、ガタガタと鳴る歯は止められず、口の端からは涎が垂れる。  手の甲から現れた女が、私に顔を近づけた。  幼い頃に読んだ昔話の山姥の挿絵にそっくりな顔で笑いかけてきた。  身動きできず、目も逸らせない。  女はささやくように言った。 「さあ次はあんたの番よ、交換しましょう」  ポケットから女の体がずるりと抜けたと同時に、私の体は、プールの排水口に勢いよく吸い込まれるような息もできない勢いでポケットへと吸引された。  抗う暇などない、一瞬の出来事だった。私は宇宙へと放り出されたようだった。
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