交換ポケット

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 姿見の前に、コートが落ちた。  コートのそばには裸の女が、両手を床に付け、じっとしていた。 「ようやく、ようやく出てこられた」  女はぶつぶつつぶやき、フラフラと立ち上がると、部屋を物色し、見つけ出した服を着た。  そして、落ちていたコートを拾い上げて丁寧に畳むと、手元にあった紙袋に入れた。  女は慈悲深い笑みを浮かべた。 「大丈夫、このポケットの付いたコートは、新しい買い手が見つかるよう、しかるべきところへ出しておくわ。ポケットって、不用意に手を入れてしまうけど、案外危ないものなのよ。何が潜んでいるかなんて思いもしないから、覗き込んでチェックしないもの。とんでもないものが入っているし、とんでもないところにつながってたりするんだわ。こんな目には、もう二度と遭いたくない」  そう言うと女は、玄関から外へと出ていった。 おしまい
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