663人が本棚に入れています
本棚に追加
4.やさしいキスをしよう
ーーーーちゅ…
唇が触れ合うだけの口づけ。
「はぁ、」と夕人は息を吐く。無意識に呼吸を止めてしまっていた。
その優しいキスで、唇が触れただけでも心の中の想いがすべてが伝わってしまいそうで、まだ、少し怖くて。
ベッドの上で見つめ合う。速生は腕を伸ばして夕人の身体を引き寄せた。
柔らかい黒髪に顔を埋める。5年前と何も変わってない、さらさらで、細くストレートな髪。一本一本の手触りを鮮明に思い出せるほどに、触れたくて仕方なくて、焦がれたーー…この感触。
「ああ、夕人の匂いだーー…。ずっと、ほんと、こうしたくて。
俺、いままでずっと頑張ってきてよかった。まじでこの5年間,武者修行のようだったぜ?何度夕人のところまで押しかけてやろうかと。ほんと、耐えて良かった」
「な、おまえ…匂いとか、そんなの覚えてんの?犬かよお前は、いや、犬に失礼だわ……こ、この変態」
恥ずかしさのあまり抱きしめられたまま減らず口を叩いてしまう。
「へぇ〜〜〜…そんなこと言うんだ?
誰が昨日ゲロ吐いた夕人を着替えさせてここまで運んで寝かしたと思ってんの?俺のスウェット着て…えらそうにさ?」
「…うっ……」
ーーーこいつ、なかなか言うな…。
「あれっ………じゃあ俺の服は…?」
「ーーーあそこ。」
ベランダを指差す。洗濯済みの、ハンガーにかけて干された風に揺れる夕人の服。
「ーーー乾くまで帰れないよ?」
頬にちゅ、と優しくキスして、くんくん…と夕人の首元の匂いを嗅ぐ速生。
このバカ犬……と思いながら身体を離そうとするが、すぐにまた腕の中に引き寄せられる。
「ちょ、っと、俺昨日シャワーも浴びてないし…汚いって」
「んなことないよ、超いい匂い。
気にすんなよ、第一、俺は夕人のゲロなら飲めーー」
「…いや、ごめんそれ以上はやめて。ほんとやめて、自主規制して。」
5年前のあの時から,2人の中で、何も変わっていない。
また、あの時から始まる二人のあたたかく、甘い、濃密な時間。
最初のコメントを投稿しよう!