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5.僕たちの、宝物とお守り
「じゃあ……ここで。」
駅前に着いた二人は、黙って向き合いお互いの姿を確認する。
反対方向の電車に乗らないといけないため、ここでお別れだ。
「夕人、家着いたら……メッセージ送ってくれる?
電車の中でもいいよ。
ーーー別に、何もなくても、連絡して。
電話してくれてもいいし、いつでも出られるようにしとくから」
繋がりを失いたくないから、と不安そうな顔で速生は夕人を見る。
あれだけ愛の言葉を伝え合って、触れ合ったといってもーー…もし万が一また、夕人が自分の前から姿を消したりなんてした日には、それは後悔なんてものでは済まない。
ずっと、24時間絶えることなく繋がっていたい。
だけど、お互いの生活が確立している今の二人には、すぐにそんなことは叶わないとわかっていた。
「うん。
ーーあのさ、速生、番号…変わってないよな?」
夕人はスマホをポケットから取り出す。
「ああ、変わってない。これだよーー」
そう言って、速生が自分のスマホを開いた瞬間、待受画面に映るなにか見覚えのある写真に、夕人は「えっ…?今の、」と遮った。
「あ……バレたかぁ。
ーーーー見る?俺の待受画面」
そういうと速生は夕人に、スマホの画面をかざして見せた。
そこに映っていたのはーーー…
夕焼けに照らされる、放課後の、美術部室。
椅子に座ってカンバスに向かい筆を取る、
夕人の横顔ーーー。
「えーーー……お、俺………?
な、なにこれ、いつのだよ?」
まさか、いつの間に?隠し撮りされていたなんて………
「高校生の夕人。俺の待受、その時からずーーっとこれだから。
いいだろ?どんなカメラマンの撮った写真にも負けてないぜ?ま、隠し撮りだけど。
ーーー俺の宝物」
恥ずかしげもなくそう話す速生のことを見て、少し黙った後、「ぷっ……あははは」と笑い出した夕人。
てっきり“お前はストーカーか!やめろよ!”なんて言って恥ずかしがって怒る反応を見せるかと思っていた速生は、目を丸くする。
「なんていうか……。
俺たち、やること似てるな。ーーほら」
そう言って夕人は、ショルダーバッグの中から手帳を取り出し、そこに挟んだあるものをつまんで速生に手渡した。
「えっ…………これ、………」
「ごめんな。ずっと返さなくて」
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