772人が本棚に入れています
本棚に追加
それはーーー
カードケースに入った市立図書館の貸し出しカードだった。
“HAYAMI KUGA”の文字と、15歳の速生の顔写真………。
「あの時、誰かさんが救急車で運ばれてる間に、図書館の受付で渡されて、そのまま。
返すタイミングなくて……もう、貰っておいてもいいかなって。
ーーーそれからずーっと、俺の、お守りだったよ」
カードに込められた思い出の深さは、誰にもわからない。それは夕人だけのもので、カードの持ち主の速生にさえも、教えてあげたくないほどに。
「ーー……どこやったのかなって思ってたんだ。
夕人が持っててくれたんだな…。
返さなくていいから、それ、あげるよ。
お守り継続して?
ーーーーほんと、やることなす事ーーー………」
速生は、とても切ない瞳で夕人を見つめる。
いとしくていとしくて、仕方ない。
こんなにも、想いが通じ合っていたなんて。
それでいて離れてしまった、二人。
これから、少しずつ、取り戻して行こう。
二人だけのあたたかく、色鮮やかな日々を。
悲しい記憶に上書きをして、描き続けるんだ。
二人だけの色を。
「お互い様ってことだな?」
速生は夕人を抱き寄せた。
ぎゅっと強く、腕の中、夕人の温もりを噛みしめる。
「ーーちょっと…人、みてるからやめろ、バカ!」
「チャージ完了。……まあすぐ使い果たすんだけどな」
笑い合って、二人は別れた。
最初のコメントを投稿しよう!