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ーーー黙ってて悪かったな、速生。 だってさ、その鳩が豆鉄砲を食ったような顔、見てみたかったんだ。 俺にいつも、変なことばかりしてくるから。その仕返しだよ。 だけどさ、正直、すごいと思わない? ここまでうまく事が運ぶとは思わなかったから、俺もちょっとだけびっくりしてるけど。 “夕人さま!さすが!”って、褒めてもらわないとな。 ーー………な?速生。 「いやぁ〜〜夕人先生。 玖賀さん、いい人だねぇ!見てよ?このペンいただいちゃった。ヒット商品のレア物だよ。 しかも、次来る時は海の上でも使えるハイパーなやつを持ってきてくれるんだって! さすが、夕人先生の推しメンなだけあるね。」 (おっ、推しメンーーー?俺が、夕人の?) その言葉に目を丸くして,黙ったまま速生は夕人を見る。 たじろぎもしない様子の彼の瞳に、釘付けに。   「……へぇ〜。海の上でも使えるんですか、すごいですね。 校長先生、釣りに行かれててボートの上で急にお仕事しないといけなくなっても、安心ですね」 「おっ、言うねぇ〜?夕人先生! じゃ、今度大型ボート借りて行く時、夕人先生と、玖賀さんも!一緒に行きましょうか! 今からの時期はねぇ、沖まで出たら青物たくさん釣れるよ〜〜楽しいよ!」 「ーーあっ、それ、僕は遠慮しときます。 玖賀さんとお二人で行ってきてくださいね。」 「ほほぉ〜? 夕人先生、相変わらずの塩対応ですねぇ〜〜」 夕人は校長の真後ろに立ったまま、一瞬だけマスクをスルッと顎下にずらすと、速生の顔を見る。 校長に気付かれないように……… “べっ” と舌を出して見せた。 少し、内出血のように赤くなった口の端が目に入る。 その表情(かお)が、速生に対して、何も言わなくても。 すべてを伝えている。 (夕人ーーーー………) 真っ赤に赤面する速生。 (俺はこれから先、どれだけ経っても、きっと。 夕人にはかなわないんだなーーー…) いろんな想いが交差する心の内。 とにかく、声を大にして、叫びたい程の想い。 愛してるよ、夕人。 いますぐに言いたくて、仕方なくて。 速生は、情けないほどに、営業マンらしからぬ感情がこもった表情で、夕人を見つめた。
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