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3-1
ーーー…
少し肌寒さを感じる夜明け。
日照時間が短くなるにつれ徐々に冬の訪れを感じ、少しずつ胸を襲いくる寂寞に切なさが込み上げる。
冬はあまり好きではない。
辛い記憶が蘇るからだ。
愛するひととの別れを、痛みを,嫌になる程に思い出す。
ーーーただし、それも少し前までの話。
出口の無い暗闇を彷徨っていたようなつらく、苦く薄黒い色をしたその記憶も、まっさらに、眩い光を照らし続けているよう塗り替えられたいまではむしろ。
それは互いの絆を強めるための逆境であったのかも,とすら思えるほどに。
いま、すぐ横で。
隣に眠る彼の体温を、あたたかさを。
かけがえの無い存在であることを。
嫌というほど思い知ることができる。
ーーーだから、今では、冬だって悪くない。
ただ、寒いのは苦手だけれど。
夕人は柔く温かなベッドの中で、夢現にそんなことをぼんやりと浮かべながら、また、二度目の眠りへと誘われていく。
「ーーーーうと、夕人」
「んん……だ…からぁ………まだ、早いって……はやみ……
そんなあさ早く学校いってなにムニャムニャ………」
(うっわぁ寝言ゆうと、やばい。カワユス)
「ーーはっ、いやいやキュンしてる場合じゃ無い。
夕人!起きなくていいのか?絵の続きしにマンション行くんだろ?」
「ー……ムニャ……ーーふぁああああぁっ‼︎‼︎」
叫び声を上げすぐさまベッドから飛び起きる夕人。
真っ裸の自分の横にはワイシャツにネクタイを装着してしっかりと出社準備完了の速生が自分を見つめている。
ーーーなぜか添い寝するスタイルで。
「え!い、いま何時⁉︎」
「んー?7:20。」
「あわわわ!やばいっちょっと!な、なんで起こさないんだよバカッ!ちょっとそこどけって!」
「いや……1時間前から起こしてたけど?
夕人ってば“はやみぃ〜♡”って寝言いいながら俺の胸にくっついてすりすりしちゃって……何の夢見てたんだよ?」
「は⁉︎………なっ……嘘言うなよバカっ!
あああもう!……マンション寄る時間無い!
ーーーもうこのまま仕事行く!」
「…………」
大慌てで下着を身につけワイシャツを取りに走る夕人をニマニマと微笑みながら見つめる速生。
(はやみぃ〜♡はウソだけど、すりすりしてたのは本当だよーーー…ねぼすけゆうと。)
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