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福来:薫布
朝の目覚めは、良い方だ。
散歩がてらに裏口を出て、我らが店の区画を大きく一巡する。夜明けの早い時期なれば空の青は既に濃く、夏の朝に独特の清涼な気が街を渡り心地よい。
頼喜街。
玲邦随一のこの問屋街は、今日もまた活気溢れる賑わいを見せることになるだろう。予感を裏打ちするごとく、店によっては既に板戸が取り去られ、人の声なり朝食の具体なる皿の香が漏れて来る。
普段通りに散策をして住処へ戻れば、ここも既に旨そうな匂いで満ちていた。焼き魚に……ああ、私の好きな厚揚げ汁。
今日は朝から馳走である。
清々しく目覚める己の健やかに感謝をし。
美しき朝の気と街の景色に感謝をし。
この頼喜の薫布に得たる居心地のよき住み込み棟と、上手い飯に感謝をし。
そして……愛しき者と日々を過ごせる、薫布の店と人々全てに感謝をし。
今日も一日、心を込めて働こう。
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