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『なあ、緑如。今夜にも身が危ないならば。生涯を共にすると決めたお前を失うなど、思うだに耐えられぬ。かたや暁嬢様を拒む由はない。私の知らぬ事情もあろうが、世話になる道もあると思う』
『…………』
私なりに、由はほかにもいくつかある。
このところの緑如の怯えが今夜のためならば、その憂いごとに消えそうだ。また、常なる貴族とて激高に足る緑如の暴言をなべて不問に、興深そうに我らを見守るお二人は、謎も深いが懐も深い気がする。
して、何よりも。
男同士を厭うやつらを排除する、と聞いた折の、あの開放感。
縁に縁をつないでここまで来た私の本能が、目の前の新たな道を望むのだ。
『な、緑如。共に行こう。……なに、大変ならばまたその時に考えればいい』
『…………』
『おおそうだ、緑如自身は行くのだった』
私は身体の向きを変え、お二人へと平伏した。
『この福来もぜひに、暁嬢様の元にてお世話になりたく。二人揃ってよろしくお願い致します』
………………。
己が落とす影に顔を埋めて、しばし。
暁嬢様の明るい裏声が響いた。
『よぉし、決まりねっ。顔を御上げなさいな、二人とも』
二人とも。
反芻しながら身を起こせば、緑如も遅れて頭を上げた。私に続き伏していたのだ。同意の元に進めることに安堵する。
暁嬢様と客主が満足そうに浮かべる笑みは、してやったり、の意だろうか。罠の通りの成り行きなのだと。
結構至極だ。
罠でも良い、お二人が満ち足りるならそれもまた良い。
私は人の手のひらに踊ることを厭わぬ。
それが、我らのためならば。
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