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一時期は玲邦に下宿していた廼宇だが、春先より大都心に戻った。その折から通いには護衛が同行している。護衛と虫よけ両方を兼ねるべし、との暁嬢様からの采配らしい。
廼宇の到着早々に、店回りに怪しき気配がないかその方に伺いたいと廼宇に頼んでみたところ。
「いや…………特にはないとのことです」
不思議な間を作りつつ、護衛の返答を伝えた。
「しかし実は私も妙な感がありまして。念のため今日は日中も近場にいてくれることになりました」
それはなんとも心強い。
かような折こそ暁嬢様が頼りになる気がするが、当面来ぬとのお話なのだ。
暁嬢様は先週、廼宇の二度目と共に現れた。
緑如に加えて、珍しくも廼宇と清婁と共に四人で総務室にて時を過ごし、終わると内房に寄り安慈の大福をひとつ口に放り込む。
『あ~~~、美味しいっ。買い付けの間、ずうっと食べたかったのよ、これ』
伸びやかな裏声で満足そうに嘆息し。
嬉しそうにその態を見つめる安慈の、ふくよかな頬を指でひと突きし。
『じゃ、みんな。わたしまた、来なくなるからね、……お店をよろしくねっ』
黒き眉を上げてニコニコとひとりずつを眺めたらば、そそくさと去って行った。久方ぶりだというのに、あまりに短い帰還である。
その後の緑如は明らかに様子がおかしかった。
神経の尖りを表す瞬きが続き、声掛けへの応じの悪さから推すに私には秘すべき事柄らしい。
『……まあ、でも、大丈夫だよ。廼宇は時々来られるから』
まあ、でも。の前の文が分からぬが。
廼宇はさておき、何ゆえ清婁も呼ばれたのかも不明だが。
それは聞かずもよいことだ。
私は緑如の背をゆっくりと撫で、そうだな、廼宇がいれば、我らも暁嬢様も安心だな。と言った。
緑如は目を閉じ、頷いた。
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