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「ふ、ふむ……ともかく……さておき。本来ならば廼宇が宮に出入りするには機が早かろうとは存じまする。今の廼宇は注目の的、貴族としての正式な紹介以前に無駄に寄り付く者も多いかと」
「ますますダメだっ」
「しかし一応、皇子殿下の下命ですし」
「一応も何も、直々にお越しになってのご下命をお断りなどあり得ぬぞ」
「いーや断れっ。……断れぬならなんとかしろ、徳扇。行くというなら俺とて無論同伴する。血を見る結末となるは目をつぶれよ」
「……ふぅ~……」
徳扇が、緩やかな嘆息と共に顎鬚をさする。
本件についてなんら悩むべき責はないのだが、かように無茶なる投げ方はこの二人には茶飯事だ。これぞ子守りの現場なり。
……などと己の無策を棚に上げて様子見するうち、存外早くに徳扇がぽん、と膝を打った。
「この徳扇、ディ―ハルク様とブルグトの指南に心当たりがございます。廼宇も共に訪えど暁士様もご案じなきところ……ただし話が通るか不明ゆえ数日くだされ」
「僧院はダメだぞ。宗教がらみは西刹羅から文句が出る」
殺したって文句は出よう。
心得ておりまする。ともあれ廼宇、これにて征殿下からのお話は終わりだな。と確認をする徳扇に丁寧に頭を下げて同意を示しつつ。
ゲンサからの、三つ目の話が内心に浮かぶ。
廼宇としては最も苦き話であった。
『廼宇。これはお前のみに言う、他言無用ぞ。我はこのためにも直に来たのだ。……ファブジの命は、諦めろ』
『え』
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