二○三号室『ソウキ』

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 洲和亜虎(すおあとら)  好きなこと、楽しいこと。  嫌いなこと、楽しくないこと。以上。 「っなあ、きもちい?」 「んー、普通?」 「え、普通ってなに?」 「百点中三十二点、君ってエッチ下手なんだね」  以上、本日のハイライト。ホテルの一室から服をひん剥かれたまま捨てられる。殴ってこないだけ優しい方なのかもしれない。  イテテと体を起こし、起き上がろうとしたとき、側に人が立ってることに気付いた。 「大丈夫すか? ……喧嘩?」  清掃のバイトだろうか、黒いマスクに似合わないエプロン。両腕にゴム手袋をハメたその青年は抑揚のない声で尋ねてきた。対する俺は全裸。申し訳程度に財布を腹に乗せているくらいで他は丸出しである。 「んーまあそんなとこ」 「中、人は?」 「いるよ」 「話は?」 「無理そう、てか、扉開けてくんないかも」 「……なにしたんですか?」  素直な子だと思った。普通ならこんな明らかに面倒臭そうなやつに話しかけてこないと思うのに。 「浮気?」と首を傾げる清掃に、違う違うと首を横に振る。 「セックスが普通だねって言ったんだ」 「へえ」 「そしたらこのザマだ」  開き直って胡座を掻こうとすれば、流石に見兼ねたようだ。清掃の子は通路に寄せてあったカートからタオルを投げてくれる。 「うわ、いいの?」 「別にいいっすよ、使い捨てなんで」 「君、ここのホテルの子?」 「まあそんなところです。……それより、服どうしますか?」 「従業員用のやつなら何着か余ってると思いますけど、下着は販売してるし」と清掃は続ける。  いくら金があるとしても、この姿で買いに行くことは難しい。「じゃあ甘えちゃおうかな」と俺は清掃に着いていくことにした。
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