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短い夏
今回の事でイリナとユーリーの間はぐっと縮まっていた。
イリナがようやく高熱から目覚めたとき、ユーリーはイリナに求婚していた。
クレショフ家の両親も娘のようにかわいがっているイリナと息子との結婚に反対のはずはなかった。
まだ、それを知らなかったソフィアは嬉しい報告をした。
「私ね、シェフとして認めてもらえたのよ。お父さんのお店をシェフがそのまま返してくれるって言うの。ご自身はもう、年だからって。家もそのまま返してくれるって。イリナ、前の家に引っ越せるのよ。」
ソフィアは大学を辞めた修行中からお付き合いをしている男性がいた。師匠の息子のモロゾフだ。
イリナはソフィアに言った。
「ソフィア、おめでとう。本当に、おめでとう。とても頑張ったのね。私からも報告があるのよ。」
イリナはユーリーに求婚された事。そして、この場所を離れたくない事を伝えた。
ソフィアには今のシェフたちがあの家を出て行く必要はなくて、そのまま住んでもらいソフィアだけが前の家に嫁ぐのはどうかと提案した。
ソフィアの彼のモロゾフの家族とも話し合いをして、ソフィアがそれでよいのだったら喜んでその提案を受けるという事になった。
イリナとソフィアは同時に結婚式をすることになった。
会場はソフィアが後を継ぐレストラン。勿論、モロゾフと一緒にシェフをする。結婚式のごちそうは父の弟子でソフィアの師匠が引き受けてくれた。
冷たい雪の国に、短い春と夏がやってきた。
二組の美しい花嫁はお日様のような金色の髪をして、少し色の違う瞳でお互いに微笑みながら、二人きりだった家族が、同時に二組も増える事をとても喜んだ。
レストランでは元々のソフィアの部屋はそのまま使わせてもらっていて、猛吹雪の様な時にはそこに泊まっていたので引っ越すのに何も問題はなかった。
イリナとユーリーは実家のすぐそばでもあるし、ソフィアが休日に遊びに来てもすぐに使えるように、イリナの住みなれた家で新婚生活を始めた。
ユーリーの仕事をイリナはだんだん手伝う事が多くなっていた。
夏でも寒い位のこの国ではまたすぐに冬がやってくる。だが、クレショフ家のお花のハウスはいつも同じ温度で暖かい。
結婚したばかりの時には、イリナは暖かい場所にいた方がいいからと、ユーリーはお昼は実家で一緒に食べるようにして、イリナをハウスに連れて行っていた。
一年中同じ温度で暖かいハウスはイリナの身体にはとても良かったようだ。
イリナは熱を出さなくなり、結婚して何度も冬を過ごす間には段々身体も丈夫になって行った。
段々と温室を手伝うようになり、仕事で、重い物も少しずつ持っていたイリナはだんだん逞しくなって、家の事もしっかりとできるようになっていた。
あの恐ろしかった猛吹雪の時の冷たい雪を、何度も何度も思い出しながら、毎年の長い冬をユーリーと、時々はユーリーの家に行ってその両親と一緒に過ごす。
もう、どんなに雪が降り積もっても、イリナは恐ろしくはない。
あの若かった時のように、お母さんの残してくれたコートを着て、二人の間に生まれた可愛い子供が寒くない様に薪を取りに外に出る。
そして、コートに降り積もる雪の中から雪の結晶を見つけ、しばらく見とれている。そんなところは昔と変わらない。
ユーリーの家の窓が内側からコンコンとたたかれる。
『早く孫の所へ戻ってね。』
今やイリナの二人目の母となった人から合図が送られる。
イリナはパッと笑顔になって、軽く手を振りながら自分を待つ可愛い子供の所へ走って戻るのだった。
【了】
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