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 シオンの表情と腹ばかりを気にして過ごす。どちらも、ほとんどの時間シーツに隠されており、時々しか見えなかった。  だが、その分、露出したときの衝撃は大きかったものだ。表情は際限なく枯れ続け、腹は目視可能な膨らみを持っていく。それでも、医師の言う通り小さいのか、僕の知っている妊婦のものとは大分違ったが。それでも確かに、命は痩せた体内にあった。  あれだけ栄養を拒めば、腹の中で息耐える方が自然だっただろう。しかし、不要な奇跡はシオンに付き纏い続けた。  このまま行けば、きっと産むことになる。想像は、日に日に鮮やかになっていった。  ただ、最後まで奇跡が居続けるとは限らない。それこそ、二つの心臓が同時に止まる可能性だってある。それも、苦痛を最期の記憶にして。  考えるだけで、背筋が凍った。身震いは絶えなかった。  それに、無事に生まれたからと言って、そこで終わりではない。きっと、シオンの嘆きが次々と再現されていく。  それならばいっそ、この手で今すぐシオンの息を止めるべきだ。それが最大の優しさで、賢明な判断だと何度も納得していたのに――愛を刻んだ心が、必死に抵抗してきた。    シオンはその日も、ベッドで命を嘆いていた。覗く瞳は限界を訴えていたが、手を汚したくなくて目を反らした。  そんな時だ。カーテンの隙間から見えた、小さな動きに引っ張られたのは。注意を向けると、雪がゆっくりと降下していた。 「シオン、雪が降ってるよ」  意味のない掛け声と共に、指先でカーテンの裾を引いた。僅かに広くなった隙間からは、想像よりも白く染まった世界が見えた。 「……シオン、寒くない?」 「……死にたい」  当時の思考回路は、やっぱり紐解けない。けれどその時、僕の心は一瞬で砕かれた。元々脆くなっていたとは言え、ありふれた一言で砕けるとは思わなかった。 「殺してよ、スグリ…………私を愛してるなら殺して……」  ――そうだ。  あの時、胸の内が空白になったからか、急に名案が降りてきた。シオンも子供も僕自身も救われる、そんな案だった。 「シオン、少し散歩に行かない?」 「……急に何……」  鈍い動作で僕を見たシオンは、誘いを廃棄しなかった。  何かを悟ったように、静かに頷き腰をあげた。
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