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5
温かい格好をして、荷物を一つだけポケットに突っ込む。シオンにも、細身が曖昧になる防寒をしてもらった。
徒歩圏内にあるはずの海からは、塩の香りがしなかった。柔らかな雪は、既に世界の大半を乗っ取ろうとしていた。
「ずいぶん白くなったね、シオン」
伸ばした足跡も、数分も立たずに消えただろう。
「……ごめん、寒いよね。そうだ、手を繋ごうよ」
俯き気味のシオンは、白い息で同意した。差し出された手は冷えきっており、既に死人同然だった。
細身の体が、衣類だけで気温に勝てるわけがない。でも、それでいいのだと喜んだ。
無人の海は、夏ごろとは違う空間と化していた。例えるならば、丸ごと切り抜いて取り替えたよう、とでも言おうか。
舞い散る雪が、後追い入水を繰り返している。雪を取り込んだ水辺以外は、全て連結した雪に満たされていた。世界に二人、そんな特別な気分になった。
「冬の海も綺麗なものだね……水、冷たいかな」
手を離し、小さく駆ける。思いっきり水を蹴ると、飛沫が顔にかかった。
冷たさに神経が驚いたが、構わず何度も水遊びをした。
「シオン、おいで」
ポケットに忍ばせた、荷物を手に翻る。
「一緒に天国へ行こう」
「…………うん」
睡眠薬の箱を、シオンは迷わず手に取った。
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