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「スグリ、今日のご飯どうかな? 醤油切らしちゃってて、別の調味料で代用してみたの」
「すっごく美味しいよ。いつも美味しいけど、違う味付けもいいね」
シオンと僕は夫婦だった。とは言え元々が幼馴染みで、十年ほどは恋人でもあり同棲期間もあった。だから紙切れを提出したところで、生活にあまり変化はなかった。
「シオン、いつも頑張ってくれてありがとね」
「ううん、スグリは仕事頑張ってくれてるんだもん。私も出来ることはしなきゃ」
「無理はしないでね。駄目な時はそれでも良いから」
「うん、ありがとう」
ただ“結婚”をずっと先伸ばしにしており、機会を遠ざけていたのも事実だ。
理由は、シオンが心を病んでいるからである。
始まりは、関係を恋人に変えた一年後だった。高校受験や対人関係で心を削ったらしく、重度の鬱を発症してしまった。
「今日はなんだか眠いから、ご飯食べたら薬飲んで寝ちゃうね」
「うん、分かった」
それでも徐々に回復しており、プロポーズから四年粘ってやっと頷きあえた。
「スグリ、明日は予定通りお弁当作るから、海行こうね」
「うん、行こう。でも駄目そうだったら寝てていいし、キャンセルも大丈夫だからね。いつでも行ける距離なんだし」
「ありがとー」
このままシオンの病が去り、平凡に愛し合っていくはずだった。春の木漏れ日も夏の潮騒も、秋の夕暮れも冬の銀世界も、記憶に残らないほど穏やかに重ねてゆくはずだった。
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