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結局、一週間もの時間を決意に費やしてしまった。
「…………シオン、今話をしてもいい?」
シュミレーション一つできないまま、問いかける。気晴らしのための映画鑑賞が、終わったら尋ねると決めていた。
「……ごめん、駄目ならいいんだ。次、何見る?」
なんて、決めたくせに一瞬で折れてしまったよな――些細な言動にさえ、後悔がくっついている。
「……動物の」
「いいね。ほのぼのしたやつにしよう。あ、見る前に飲み物入れてくるけどシオンはいる?」
「…………いらない」
一人分のコップを持ち、やや急ぎ足でソファの裏へ回った。その時だった。
「…………れた」
「えっ?」
「レイプ、された……」
瞬間的な感覚を、今でも体感できる。
溶けそうな三字で、全身の筋が強く張った。隙間を作った覚えもないのに、コップが涼しい音を鳴らした。一気に高まった熱は、脳と心臓を茹であげるかと思った。頭を満たした赤の色調も、事細かに残っている。
どうにか眼球を動かし、ソファから覗く背中を捉えた。後ろ姿は、普段増しで小さくなっていた。
破片があったはずだが、痛みを記憶していない。ただ、短い距離を全力で駆けた。
シオンはまた、全身を苦しみで満たしていた。両手で歪む顔ごと包み込む。辞典の中にいるかのように、言葉がまたも脳で弾けた。なのに、やっぱり一つを選びきれなかった。
怒りか悲しみか、無力感か、僕の体も同じくらい震えた。
警察に行こう――あの後、僕は慰めにもならないそれだけを選びとった。シオンの拒絶により、意味を持たずに消えたけど。
あの時、もっと強引であればよかった。あの場面で、シオンを想いすぎなければよかった。
どの場面を辿っても、悔やむばかりだ。
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