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「シオン、オムレツできたよー! 入るねー!」
僕が想像する何倍もの早さで、シオンの心は潰れていったらしい。
「シオン?」
あの日を境に、オムレツを作っても食べてもいない。ケチャップと同じ赤さを、シオンの手首に見てからは。
うつ伏せで、シオンがベッド脇に落ちていた。その右手にはカッターナイフが、左手には血液が滲んだ状態で。
「シオン! 嫌だ!」
皿が落ちる。オムレツも弾ける。駆け寄ると、小さな啜り泣きが聞こえた。
呼吸しやすいよう体を仰向けにし、ブランケットを傷に巻いた。苦悩に歪んだ顔は腫れていた。
「……スグリ、ごめん……」
「なんで……! 僕はシオンがいないと駄目だって言ったじゃん……」
滲む血は、僕の心から溢れているかのようだった。悲しみを共有しそうになりながらも、わざと呼吸を止めて堪えた。
「…………今、救急車呼ぶから……」
「やめてスグリ! お願い、病院には行きたくないの! お願い!」
子供以上にまっすぐに懇願され、指先が固まった。けれど、シオンは僕の躊躇いになど気付いていなかっただろう。
ブランケットの血は、形を確定させていた。だが、心を鬼にしなければ、シオンは今以上に崩れてしまう。そんな未来が見えて鬼の面を被った。
「……ごめん、電話する」
愕然とする顔は、僕に穴を開けた。
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