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処置を受けたシオンは、同時に身体検査も受けた。半年の間、目を離さなかったせいだろう。一分ごとに不安が募った。結局、待合室に一時間二十六分縛られた。
どうぞと呼ばれ、診察室に通される。シオンは点滴を受けるべく、別の部屋へと移動していた。カルテを睨む医師の、厳つさが怖かった。
「シオンさんね、心の疲れももちろんなんだけど、重度の栄養失調になってました」
「すみません……」
ただ真剣であったにすぎず、すぐに柔らかな笑みを出したけど。
それでも、自責に駆られていた僕は、形としてしか表情を捉えられなかった。
「あっ、決して怒っているわけではなくてね。えっと、続きいいかな。もう一つ報告があって……驚かないで聞いてね」
前置きを用意され、気配だけで背筋が凍った。マイナスの深さに怯えながらも、困らせないよう頷いた。
「シオンさんのお腹に、赤ちゃんがいました。六ヶ月です」
「えっ」
「通常に比べて体は小さいですが、機能の成長は他の子と何も変わらなかったよ」
聞きたくないと耳を塞げばよかった――成す術のない後悔が、頭を駆け回った。
「…………それ、シオンは?」
「気付いていたようですよ。ですが、あまり嬉しそうではなかったね……もしかして望まない子だった?」
問われて第一に、事件が顔を出した。光景は欠片も知らないのに、見知らぬ男に襲われる姿が見えた。
屈辱と恐怖を植え付けた、男の子が宿っているなんて――それこそ死よりも深い苦しみに見舞われるだろう。想像は容易かった。
「ちゅ、中絶は……」
「それが、もう出来ない期間に入ってしまっているんです。でも――」
ここで何かを説明されたが、透明になってしまっている。
シオンは妊娠を感じていたから、病院を拒んだのだろうか。それは今でも分からない。
けれど、ただただ全く気付けなかったことが。心に触れているつもりで、外側すら見られていなかったことが。一番近くにいて愛を囁いていた奴が、こうも無能であったことが何よりショックだった。
罪悪感に何度も刺され、涙がひとりでに伝うほどには。
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