Gils in the knigts of "Byakuren".③ 【白蓮抄】

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 わたしくるす。 東宮(ひがしみや)くるす。 どっかで聞いた名前だって? それは単なる誤解なので気にしないで。   わたしくるす。 本が好き。  唯一のともだちが本ってくらい小さいころから本ばかり読んでる。 だから、お父さんにどこへも連れてってもらえなくても、お母さんがおでかけしちゃってるときにも、まったくさみしいなんて思ったことなかった。 いつもよいこのように、本さえあれば、ひとりでいてもへいちゃら。   わたしくるす。 本が好きってだけじゃなくて、いろんなものをたくさん読んだ。 小説だって、雑誌だって、辞書や辞典も‥‥‥ 教科書だってよろこんで読んだ。 どこにもいかなくたって、だれともしゃべらなくたって、本は、いろんなことを教えてくれる。 そして、世界のどこへでも、宇宙だって、ドラゴンの世界だって、どこへだって連れていってくれた。  わたしくるす。 IQ130の天才少女だって? そんなわけないじゃん。  ただ本で知ったことを覚えているだけ。 そんなんで試しにでたテレビのクイズ番組で優勝しちゃったもんだから、なんとなくみんながちやほやしてくるんだよね。 だけどそんなのちっともうれしくない。  わたしくるす。 学校にいっても、授業中以外は書泉院(しょせんいん)にいりびたってる。 あっ、書泉院(しょせんいん)っていうのはウチのガッコウの図書館のことね。 今日も居眠りにきてる三人組が来ていて、いまはまだ、ぺちゃくちゃとおしゃべりをしている。 まったく失礼しちゃうよね。 だけどそんなのは気にしない。わたしは本さえあれば幸せ。  ある日、もうぜんぶの本を読んじゃったんじゃないかって思ってたころ。 なんか書泉院の奥の薄暗い場所で、鍵のかかった本棚を見つけたの。 どうやったら開くんだろう? 辞書や辞典をひいたって、どろぼうの小説を読んだって、鍵の開けかたなんてどこにも載ってない。 本にもわからないことがあるんだということをはじめて知った。  そんなわけで、途方にくれていると、ボブヘアーのわたしより小さい上級生の人が後ろに立っていた。 そうしてにやにやしながら『人が調べて書いたものじゃなくて、自分の足でさがしてごらん』って教えてくれたんだけど、なんかうさんくさいよね。 どこをどう探せって教えてくれればいいのに。  それで、書泉院のソファーの下や飾られている絵画の裏、入口によじのぼって、これぞ達筆という文字で『学為也書乃泉』なんて書かれている木板の裏を探してみたけれど、やっぱり鍵はみあたらない。 そうこうして、思い当たることもなくなって、本棚の鍵穴を、文字どおり穴があくほど(にら)んでいた。    そのとき、書泉院の天窓から西日が強くさして、その本棚を明るく照らし出したんだ。 すると、遠くにある鐘楼塔(しょうろうとう)の灰色の影が映り込み、天井に飾られているとんがり帽子が、みるみるとのびていって、鍵穴に入っていった。 あっこれだと思ったら、いてもたってもいられない。 わたしは、いちもくさんに庭にでたら、息をきらして鐘楼塔(しょうろうとう)まで一直線に駆け出していた。 わたし、走るのは苦手なんだけどね。   塔の階段についたら、もう力尽きそうになって、あきらめかけたんだけど、なぜだかどうしても、自分のちからで、この答えをみつけたくていられない。 そう思うと、自分じゃないくらいに足が軽くなってくる。 そうして、何段も何段も跳ねるように駆け上がっていった。      最上階には、鐘撞堂(かねつきどう)がある。 柱には、杭が打たれていたので、大股で足をかけたらなんとか屋根までよじのぼっていけた。 お母さん、はしたない娘でごめんね。  屋根について下を見ると、はるか遠くに地面が見えてくる。 頭の芯がくらくらと鳴り響くと、足がガタガタと震えて、いつもはなんにも感じていない、あのことばを唱えてしまった。 「南無阿弥陀仏! (ほとけ)さま 助けて!」  すると一匹の(さぎ)がゆっくりと空を駆けていった。 西日で金色になった空の中心に真っ白い矢印のように飛んでいくその姿をみたとき、この目でみる世界にも、こんな綺麗(きれい)ものがあるんだと思いはじめて、なんだか恐ろしさも、大好きな本のことも忘れて(ほう)けてしまっていた。  そうして屋根の頂上(てっぺん)までたどりつくと、一番上のところに、銅製の(はす)のつぼみが生えている。 なんとかそこに掴まって、花びらにあたる部分をくるっとまわすと、中には古い鍵がはいっていた。 わたしはそれを握りしめると、もときたように、そそくさと戻っていったが、なんだか違うわたしになっているような気がしていた。  書泉院に戻って、鍵で本棚をあけると、睡蓮(すいれん)の香水につつまれて、真っ白い絹織(きぬお)りの表紙に『白蓮抄』(びゃくれんしょう)って書かれた古い本と、なぜだかわたしあてのお茶会への招待状が入っていた。  古い本を開くと、この学校でおきた、時間を(さかの)る一角獣のおはなしや、毎年おきる鬼たいじ、なみだを流す井戸に満月の夜に一斉に飛び跳ねる銀の(うろこ)の魚たち。 いろんな不思議なことや、やらなくっちゃいけない儀式のことが載っていた。 これってまだおきる前のことも書かれてなぁい? いったい誰が書いたんだろう。  それと、(はす)の花模様が(うす)()りされた、真っ白い招待状のほうには、夏休みの最初の日の明け方においでよって書いてある。 ひとと会うのはそんなに好きじゃないけれど、このときなぜだか行ってみたいと思っていた。  夏休みの最初の日、まだ陽も明けていないじゅんさい池でのお茶会につくと、みたことのあるコたちが集められていた。   綺麗な黒髪をしたあのコは、性格的にキツそうかな? 背の高いスポーツマン風のあのコは、面白いことをしゃべっているけど、私とは真逆のタイプ。 いつも学校で目立っているポニーテールのあのコは、ちょっと騒がしくてニガテかも‥‥‥。 あっ、もじゃもじゃ頭の優しそうな目のコ‥‥‥ このコとはなんとなくやっていけそうに思う。  だけどね、わたし見ちゃったんだもん。 「白蓮抄」の数ページ。 きっと、これからわたし、このコたちと数々の不思議の解明や冒険をはじめるんだ。 だから、どのコとも仲良くやっていけると信じている。  そう思ってたところに、優しい通る声が即してきた。 「ようこそ、みなさん席について」  のぞいたティーカップから顔をあげると、みんなが緊張しながらもキラキラと瞳をかがやかせている。 それを見ていたら、いつのまにか、同じように、わたしも瞳を潤ませていた。  なんだか友達がいるってのもいいなって思えてきた。                              【了】
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