美沙さんはのんきに鼻歌なんて歌ってる

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 大きなお皿の上にのせられているのは、ウサギやお花などカワイイ形のクッキー達。 「賢太君、お父さん少し遅くなるって。先に夕食にするから食べすぎちゃダメよー」  美沙さんはキッチンからのんきな声を上げる。 「お腹は空いてないから、クッキーはいらないよ……」  そう言っている側からボクのお腹がグーと音を立てた。  僕は急いでシンプルな丸い形のクッキーを口に放りこむ。  クスクスとおかしそうに笑う美沙さんの声が聞こえる。  小さな子供じゃあるまいし、動物や花の形なんてバカにしないでほしいな。 「宿題やってくる!」  ボクは必要以上にドンドンと音を立てて階段を上っていく。 「ふん、ふふふーん」とお気楽な感じの鼻歌に、ボクは部屋のドアをバタンと勢いよく閉めた。 「……でねー大原(おおはら)さんったらねー……」  美沙さんはとってもおしゃべりだ。  突然(とつぜん)やってきたお父さんの再婚(さいこん)相手に、初めは遠巻きにしてながめていたご近所さん達も、あっという間に美沙さんのペースに巻きこまれていき、今ではよいおしゃべり仲間になっている。  でもおかげで康二達にも美沙さんのことがバレちゃった。  きっと笹本さんの耳にも入っているんだろうな……。  ボクはホロホロとやわらかく煮こまれたトリ肉を口に運ぶ。  かけられているソースはニンニクがきいていてエスニックな独特の風味がある。  お父さんと二人だったころはテーブルに並ぶことなんてなかった料理だ。  おばあちゃんの作る煮物と魚ばっかりの食事とも違う。   「……笑っちゃうよねー」  美沙さんは一人でしゃべり続けてる。  でもボクとしてはその方が楽といえば楽だ。  ボクが無視しようが適当な返事をしようが、美沙さんは気にする様子もみられない。  なんて、どう接したらいいのか迷っていたんだけど、美沙さんには気をつかう必要はないみたいだ。  ボクはテレビの横に置かれたお母さんの写真に目をやった。  美沙さんがこの家に()してくる時、片付けられてしまうのかと心配したけれど、全体に茶色っぽくなっている写真は今もそのまま置かれている。  それにしても、元(おく)さんの写真の前でケラケラ笑いながらご飯を食べれるって、美沙さんはちょっと無神経すぎるんじゃないかと思うな。
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