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白いフニフニした生地を指先でつまみながら小さなヒダを寄せていく。
「わあ、賢太君、上手!」
美沙さんの言葉にボクはちょっと胸を張る。
ギョウザはお父さんと休みの日によく作ってた。
平日はどうしてもお父さんが忙しくて、冷食やおそうざいになっちゃうから、土日はカレーだとかギョウザだとかを二人でたくさん作っていたのだ。
いっぱい作りすぎて土日とも同じメニューとかになっちゃってたけど、それはそれでとっても楽しかった。
でも今は、お父さんのとなりには美沙さんがいる……。
ボクとお父さんで料理をすることはもうなくなっちゃった。
リビングの方を見ると、今日もテレビの横でお母さんが優しい笑顔をうかべてる。
お母さんが亡くなったのはボクが小学校に上がる1年ぐらい前だった。
でも、ボクはそれ以前のお母さんの記憶があまりない。
初めて見るお父さんの涙はとにかく衝撃的で、ボクは思考停止におちいった。
それまで「泣く」のは、子供だけだと思っていたから……。
でもそれに構わず現実はバタバタと進んでいった。
何だかテレビでも見てるみたいな気がした。
「もうお母さんに会えない」って実感したのは、お父さんとおばあちゃんが、今後ボクの世話をどうするのか話し合っているのをこっそり聞いちゃった時。
ボクはお布団をかぶって一人で泣いた。
世の中には我慢しなきゃならないことがあるって、初めて知った気がする。
それからお母さんの顔を見るのは、写真だけになった。
毎日毎日、切り取られたようなお母さんの写真を見るたび記憶が更新されていって、ボクの中のお母さんの顔はあやふやになっていったんだ。
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