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0/9 この物語はホラーではない
神に誓って、この物語はホラーではない。
初めに断っておきたい。
ホラーというのは読者の恐怖心を掻き立てるために作られた何ものかであって、読者の恐怖心をあおろうなどとは微塵も考えていない私が書くこの物語が、ホラーであっていいはずがない。
だから諸君、どうか心に留めていただきたい。この物語で血みどろの某かが登場してきたとしても、目玉が落ちた怨霊らしき某かが「うらめしや」と言いつつ首をしめてきたとしても、単なる情景描写であって、諸君の恐怖心をかきたてるためのものではない。
この物語はあくまでコメディである。
そもそも物語というか、単なる備忘録のようなものである。私はかなり忘れっぽいたちで、1週間前のことはほとんど覚えていない。ここに記そうとしている一連の経験もきっとすぐに忘れるだろうと自負しているので、書き残す次第である。
何のために書き残すのか、とは聞かないでほしい。きっと多分、単なる暇つぶしであり、生まれて死ぬだけの人生の気慰めなのだ。何かに集中している時だけ、私という空虚な生物は自由でいられるのである。
私は山神嶺子28歳。
ふだんは警察犬訓練士として働いているが、副職というか、一族の因縁によってやむを得ず引き受けている仕事がある。
何と説明したら良いのか……。私が引き受けているのは、今一つ日本語での表現が難しいのだが、日本でいう霊媒師や陰陽師、はたまた坊さんのような仕事である。生まれつき霊感のような何かがあって色々見えるので、彼らのお悩み相談室をしつつお祓いのようなことも担当しているのである。
私の話を聞く人々はよく「それホラー?」と質問してくれるのだが、何度も言うがホラーではない。単なる経験談である。見えたものを描写しているだけなのだから、どうか恐がらないでほしい。
恐がる必要はない。恐ろしいものというのは、自分自身の影である。見ないようにしている闇の部分である。自分自身の闇を余すところなく見据え、目を見開いて挑むならば、恐ろしいものなど世に存在しないのである。
ただ、恐ろしいと思えるものに立ち向かう時には勇気と元気が必要なので、疲れている時は要注意である。よく食べてよく寝て、英気をやしなってから再び挑むのがよろしい。無理は禁物である。
だからお願いしたいのは、この長い前置きを読んでいて、もしくはこの先の話を読み進めていて、恐怖を感じた時、または面倒くささを感じた時は、左上のバツ印を迷うことなくクリックして読むのを中断してほしいということだ。そういったマイナスの感情を受けた時こそ、筆者、そして物語の波動が、あなた自身の心身状態とマッチしなかったということなのだから。
まとめよう。
この物語はホラーではない。あくまでコメディである。
ついでに単なる暇つぶしで、何か重要な事実を世間に知らしめようなどという大義名分は全くもって存在しない。
分かっていただける諸君だけ、次のページに進んでほしい。
この記録を、偉大なる司法神ヴァルナと武神インドラにささぐ。
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