エピローグ

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 元気にもほどがあるケガ人のクリスは黒部を見やり、腕をパタパタと振りながらピョンピョンと跳ねて喜ぶ。 「リロルガール(※ネイティブ寄りの発音)! 助かってよかったネー!」 「うえぇーっ!? あんた誰ですぞーっ!?」  憑依されていた間の記憶がないのか困惑する黒部は、戻ってきた啓二に気づくやいなや焦って背筋を伸ばす。 「あたいのせいで迷惑かけてゴメンちゃいっ」 「謝るなら俺のほうだぜ。ザコ扱いとかしてスマン! お前ってマジでスゲェよ。悪魔の支配に抗うとかさ!」  啓二が頭を下げると黒部は赤面してモジモジ身動(みじろ)ぐ。 「あのね真辺さん……ずっとアレコレ考えてたんです。昨日の質問の答え……強くなるために何を捨てるのか」  メガネ越しのつぶらな瞳が啓二を真っ直ぐ見つめた。 「あたい……捨てない(・・・・)」  果たして紡がれたのは質問の前提を覆す回答である。 「真辺さんには憧れない……自分を忘れたくないから、黒部 雀でありたいから……真辺さんを見習わない! 白玉が『じょーとー』だって認めてくれた自分のまま、何も捨てずに強く変わって人を助ける祓い屋になる!」  しょせん青臭い理想論でしかない。  犠牲を伴わずに成長など不可能だ。  たとえば修行にしても必ず寿命(じかん)を捧ぐ。  捧げたところで実を結ぶ保証などない。  しかしそれでも『じょーとー』だと啓二は思う。 「ありがとう……憧れないでくれて(・・・・・・・・)」  啓二の表情を上目遣いに覗いた黒部が後ずさる。 「普通に笑えたのぉ?」 「どういう意味だよ?」 「いつもの邪悪な笑顔じゃない」 「お客様? ご注文の品ですぜェ?」  ビビって逃げ出す後輩をキレた先輩が追いかけ回す、和やかな光景を遠巻きに見守りながらクリスは微笑む。
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