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 § 「あうっ」  急勾配(こうばい)の山道でバードテール(※短いツインテール)少女がハデにスッ転び、泥まみれの幼気(いたいけ)な顔を起こしてブンブンと横に振るう。すると彼女が着用していた丸メガネは勢い良く飛んで、前方を進む啓二の後頭部に偶然にもヒットしてしまう。 「おい〜黒部(クロベ)ぇ〜リタイアすっか?」  怒りの形相でゆっくりと振り向く啓二に黒部が怯え、女子高生ばなれしたロリボディをさらに縮こまらせる。 「あわわ真辺さんゴメンちゃいワザとじゃないですぞ」 「ワザとやってんなら人生もリタイアさせてやんよ?」 「ひっコワっ! カタギの目つきじゃありませんぞ!」 「帰れオメェ! ハイって言うまでメガネは預かる!」  啓二が拾って高くかかげた丸メガネを取り返さんと、黒部は手を伸ばしてジャンプするもとうてい届かない。道の傾斜がなくとも身長139センチの黒部にとって、至近距離で相対(あいたい)する182センチの啓二は巨大な壁だ。 「帰らないよ! わ〜んバカバカぁ〜メガネ返して!」 「や〜だね〜! ザコ人間のおもりなんざ真っ平だ!」 「でも代表が! 真辺さんと組めって言ってたもん!」 「うっせぇわ! ババァが許しても俺ァ許さねぇよ!」  激しい攻防の末に黒部はとうとう泣き出してしまう。 「どーしてっ? どーして(スズメ)にイジワルするのぉっ?」 「白玉(シラタマ)のキモチ踏みにじる黒部 雀がキライなんだよ。おとなしく認識操作でぜんぶ忘れて普通の青春しとけ。だいたいなぁ祓い屋なんか消耗品もいいとこなんだぞ。わざわざ好きこのんで自由を捨てて(・・・・・・)死にに来やがって」  突如として電撃のような頭痛が啓二の脳を駆け巡り、記憶に焼き付く愛しい女の顔がフラッシュバックする。 『私は難儀な血筋の巫女(みこ)で、他に生き方を知らないの。逃げられないよう呪いを込めて、親がつけた名が美子(ミコ)。だからキミを見てると辛い。自由に生きてていい人が、自分から縛られに(・・・・・・・・)いきなさんなって言いたいの。ね?』 「美子さん?」  膝を折って呻き苦しむ啓二に黒部は慌てて寄り添う。 「真辺さんっ」 「うるせぇ触んな」 「でもすごい汗っ」 「構うんじゃねぇ」 「ダメですぞ休まなくちゃ」 「こらオメェ何しやがる?」  地に横たわった啓二の頭を黒部は自分の膝に寝かせ、彼の額で大きな粒となって浮かぶ汗をハンカチで拭う。 「(おん)に着せるつもりかよ?」 「そんなんじゃないですぞ」 「くそっ急いでんのによっ」 「真辺さんって意外と弱い人なんですな」 「黙れナマイキ言ってんじゃねぇザコ虫」 「あっまだ動いちゃっ……やっ……くすぐったい」
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