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 啓二とクリスは雑木林を抜けて静かな原っぱに出た。そこでは老朽化した教会が月明かりに照らされている。 「教会に悪魔が駆け込むなんて信じらんねぇけどなァ」 「悪魔はどこまでも挑戦的で神聖なモノを怖がらない。むしろ積極的に近づいて冒涜(ぼうとく)しようとする習性をもつ」 「いくぞ」 「まって」  慌てるクリスをシカトして教会に突っ込んだ啓二は、扉を勢い良く蹴り開けて蝶番ごと吹っ飛ばしてしまう。  §  極彩色のステンドグラスから降りそそぐ月光のもと、聖堂の最奥で佇むマリア像の正面に少女がふたりいた。 「はっ……んんっ」 「りる……ちゃむ」  絨毯に膝をついて向き合うかたちで寄り添いながら、両手は互いの胸の前でやんわりと繋いで指を絡め合う。熱い視線と舌先を執拗なまでに交わらせながらのキス、花唇(くちびる)を介した唾液(えいよう)二酸化炭素(じょうねつ)の交換がひたすら続く。 「あらイヤだわ恥ずかしい」  村長の娘が啓二に気づいてお辞儀(じぎ)する。 「申し遅れましたワタクシ真理亜(マリア)といいます」 「我らの逢瀬(おうせ)(さまた)げるでないわ慮外(りょがい)者どもめ」  真理亜に抱かれる黒部が威嚇(いかく)してきた。  落ち着いてきた啓二は状況を把握(はあく)する。 「つまりグルなのはテメェらだった? ってワケか?」  §  悪魔たんが好き。  愛していますの。  だって悪魔たんだけがワタクシの味方。  ワタクシの願い事を叶えてくれるもの。  悪魔たんは教会の()本の中にいました。  カラダがなくて不便そうにしていてね。  そこでワタクシのを貸してあげたのよ。  お返しに悪魔たんは力を貸してくれる。  わからず屋な村の大人(オトナ)たちを操る力よ。  やりすぎて捕まって簀巻きにされたの。  大人なんかキライだわ特に男性がムリ。  だって怖くて乱暴で(くさ)くて不潔(フケツ)だもの。  同じ年頃の女の子と小説みたいな恋したい。  お父様にそう話したらひどく怒られました。  恥ずかしい娘だからもう外に出さないって。  女の子がいる家はどこも引っ越してしまう。  ワタクシひとりだけが置き去りにされたの。  そうワタクシは空を知らぬ可哀想な(かご)の鳥。  山の向こうの町ってステキなんでしょうね。  家出も考えたけれどやっぱり諦めましたわ。  風切羽をもがれた身では飛べないでしょう。  せめて箱庭で好き勝手に生きてやりますわ。  悪魔たんに別の女子のカラダがあればいい。  そう考えていたら悪魔たんが知恵をくれた。  祓い屋というのは基本的に男女ペアだって。  女のほうはほとんどが若い子ばかりだって。  だから大人を使って村に呼び寄せたのです。  てゆーか黒部さんってカワイイですわよね。
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