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その後私は何をしたのか記憶にない。ずっと布団に籠って天井を見ていたような気がするけれど、それも定かではなかった。真っ暗な部屋の中で、何とか復活を模索する。それでも、何故か心にぽっかりと空いた穴が痛かった。
お金を送ったからと言って、吹紀さんが私に何かをしてくれる訳では無い。毎日配信に行っているからと言って、私にだけ話してくれている訳でもない。私がただ、寂しい時間に吹紀さんが配信をしていて、それを聞いていた私は、いつしか、独り占めしているような錯覚に陥った挙句に、恋心を持っていた。それに気づくのが少し遅かっただけ。
「…ううん。気づいてたけど、気にしないようにしていただけ…」
気づいてしまったら、吹紀さんが誰かのコメントを読んでいることに嫉妬するかもしれない。何をしてるか気になってしまうし、私の今の気持ちを、吹紀さんにぶつけていたかもしれない。
布団の中で、私の体がふるえているのが分かった。目から大粒の涙が溢れ出す。枕に突っ伏して声を出しながら泣いていた。ここまで私が感情的になるなんて、大人になってから思わなかった。
気がついたら、カーテンの奥が明るくなっている。そのまま私は寝ていたらしい。急いで仕事の支度をする。いつもの様にオフィスカジュアルで、クッション性のない靴を履いて、いつもの電車に乗って、いつもの様に仕事をした。それでも、心のどこかでざわめき、落ち着かなかった。定時退社で帰路に着く。
いつもの時間にスマートフォンがふるえた。チラ見して直ぐにカバンの奥に放り込む。通知の文字には吹紀さんの配信が開始したという表示。
自分を抱きしめるように、腕を前でクロスさせた。ゆっくり深呼吸をする。昨日の夜のように少しだけ体がふるえている。それでも今は外だ。化粧が崩れてしまう。私は今は泣かない、そう決めて靴を鳴らした。
いつもの通り、昔のような日々に戻る。私にかけるお金はそれほど要らない。次は、絶対に、私が一途に愛すると決めた人へお金をかける。恋心と愛情を生身の人間の誰かへ、私は渡す。だから、今回は教訓だ。
夜空を見上げる。まだ体がふるえている。
それでも見上げた黒のキャンパスに浮かぶ、白い穴が綺麗だった。
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