第一章

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

第一章

 五十嵐ほのかは大学を卒業した後、集団ストーカー被害に遭い始めた。  ある時、記憶が途切れて、美奈川県成浜市浜田公大閉鎖病棟で目覚め、有田区の有田の丘病院に転院。家族と病院側の強要で、統合失調を認めさせられた。    退院後は有田区樹のアパートで暮らし、同病院に通院している。どこに逃げても集団ストーカー被害は同じだからだ。ほのかはブログで被害告発しながら、近所の八百屋で働いていた。  スーパーにはハロウィンスイーツが並ぶころになった。日向は気持ちいいが、だんだん涼しくなってきた。  ほのかは有田の丘病院で午前受診のあと、院内薬局を訪れた。  「下剤! なくなりましたね!」  四十代薬剤師、細山が窓口で叫ぶ。ほのか個人情報を周囲に知らしめる。この日、彼女は下剤を処方されてない。  「便はどうですか? まだべちょべちょって感じですか?」  薬剤師の特権を利用してのセクハラだ。細山は空気を読まない野太い声で、陰湿に笑って下ネタをがなり立てた。  ほのかは帰り道に樹公園によった。そこでなじみの猫達にご飯をあげていた。自宅のアパートではペット禁止だったので公園で飼っている感じである。  ほのかの長いおさげにじゃれるご機嫌な猫もいる。時刻は正午過ぎ。ほのかは昼食は自宅でとる予定だった。  この日、タマは彼女のところに、誇らしげに雀の死骸を咥えて来た。しかし死後数日経っているようでタマの手柄ではないことは明らかだった。  弱虫のタマは狩りなど出来ない。ほのかはタマの顎の前に手をかざして雀を受け取り、埋葬した。ほめるとまたやるので黙っていた。  その後、ほのかは自宅に帰る道すがら、樹駅ビル、ナナカン周辺の歩道で、薬剤師の細山がM字開脚姿でパイプ椅子に縛られている現場に遭遇した。  そばに白衣の若い男性が立っている。名札は柏木。薬剤師ではないだろうか。見たような形の白衣だが、ほのかはどこの薬局のものか思い出せなかった。  柏木は細山の顔にマジックで馬鹿と書き、漢字を間違えたらしく黒く塗りつぶし、次にカタカナ、それも失敗してひらがなで「ばか」と書き直していた。  柏木はほのかを振り返って、誇らしそうにしていた。彼女の賞賛を期待しているのか、熱い視線を送ってくる。  すらりとして見栄えのいい小悪魔的容姿だが、ほのかにとってはタマでしかない。ほめるとまたやるので彼女は黙ってその場を通り過ぎた。  彼女は集団ストーカー工作員による、町ぐるみインフルエンザサンドイッチ攻撃を受け続けていた。  繰り返し、駅近くの土井耳鼻咽喉科の世話になるが、その下、一階のチェーン店、米樹薬局の処方した薬を飲んだ後、強烈に眠くなる。ほのかは交通事故に遭う危険を感じ、原因が薬だと気が付いた。  十一月第一週、土井耳鼻咽喉科受診。調剤、米樹薬局。彼女は自宅で自分の体を使って処方薬を一種類ずつテストし始めた。  風邪薬は抗生剤、レスプレン、アンブロキソールの三錠が一日三回分。その中のアンブロキソールは服薬後、強烈な睡魔に襲われるものだった。ほのかは風邪薬を全面的に停止した。むろん風邪は悪化した。  十一月第二週、壮年の薬剤師、勝田は米樹薬局の調剤室で仕事をしていた。考え事をすると鼻の上のほくろをつついてしまう癖がある。  容姿に劣等感はなく、ほくろはチャームポイントといったところだ。彼は局内で指導する立場にいた。部下の須賀が五十嵐ほのかの処方箋を受け取ったのを確認する。  「須賀、五十嵐ほのかのアンブロキソールをこっちに変更だ」  「同じアンブロキソールじゃないですか」  長身の須賀は若さにあふれ、見た目も女子供に受けがいい。これで歌が上手かったら教育テレビのお兄さんだ。チビッ子でごった返す薬局には必要な人材である。勝田は説明した。  「中身が違う。前のは即効性睡眠薬、今度のは服薬後に30分間両手が痺れ、一時間後に眠くなる遅効性睡眠薬だ。」  「何故変えるのですか?」  「五十嵐が服薬テストをして睡眠薬を見つけるようになった。ならば飲んで気が付いた時には全身に回っている遅効性睡眠薬に変更だ」
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!