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第四章
ほのかは以降も相変わらずインフルエンザサンドイッチ攻撃を受ける。
市販の高価な風邪薬を買ったり、吐いてもいい食材を大量に買っているうちに、金銭的にひっ迫し、米樹薬局の出した風邪薬を飲むしかなくなった。
薬剤師による薬への睡眠薬混入は断続的に続き、ほのかは吐いているうちに、体力も精神力も底をつき始めた。
十二月第四週、さまざまなスーパーが年末商戦を繰り広げる頃になった。
彼女はリースも門松も選んでいる場合ではなく、自宅近くの鉄道ファンの撮影スポット、鋼鉄線沿いの坂道をもうろうとして歩いていた。
防寒は安いダウンコートにマフラー、レッグウォーマー、着飾る余裕もない。
徐行していた車がわずかにぶつかってきて、ほのかは倒れた。加害者の車はゴミにでもぶつかったかのように走って行ってしまった。
通行人がいるのに、全員ほのかを無視して歩く。ほのかはよろよろと立ち上がった。近くの老婦人がほのかを見て、口を押えてぷっと笑った。小学生軍団が団子になって走って来てほのかをどついた。
ほのかはもう一度転倒。子供たちは彼女を指さして、歓声を上げて笑った。ほのかが本気で反撃すれは未成年加害者は親に告げ口するし、加減して抗議したら精神異常者に仕立てられる。
子供たちは気が済むと彼女を無視して走ってゆく。ほのかは二たび立ち上がった。後ろから来た通行人が彼女のおさげを乱暴に引っ張って立ち去ろうとする。
ほのかが見ると彼も振り返った。凶悪な顔をしていた。私服の柏木だった。おさげ引っ張る男性が凶悪な顔をしていても面白いだけで怖くない。
「ちっがーう!」
途端に別の通行人が、懐から出したハリセンで柏木をすっぱたいていた。私服の須賀だった。
柏木が抗議している。
「何すんだよ!」
「加害者を特定できることするんじゃねーよ! 集団ストーカーは法に抵触することしないんだよ」
「おさげ引っ張るの、法に抵触するのか?!」
「そうじゃないけど、おれたち加害者は偶然を装っているんだ! 被害者の被害妄想に仕立てられる攻撃しかしないんだよ!!」
「おれたち加害者だったのか!?」
「そうだよ!」
やおら現場にグラスウールの制服を着た消防隊が、団子になって押し寄せてくる。
ピッピッピッ!!
隊長らしき人物が笛で注意。
「君たち、駐車違反だぞ!」
柏木がびっくりして訊ねる。
「消防隊って駐車違反取り締ますんですか?!」
消防隊員の一人が無線に叫んでいる。
「抵抗しました!! 二人を連行します!!」
消防隊がピッピッピッと笛を吹きながら、薬剤師二名を担ぎ上げて運んでゆく。ほのかは無き者として置いていかれそうだったので叫んだ。
「加害者! あの男二人、集団ストーカーだって認めてた! 私ターゲットにされた! 統合失調じゃない!! 助けて!!」
ほのかは消防隊に保護され、閉鎖病棟に叩き込まれた。気が付いたら拘束具でベッドに縛り付けられ、身動き取れない。
翌日、勝田は友の会樹支部で、須賀と柏木をハリセンで順繰りにすっぱたいていた。
「ターゲットの目の前で内部事情暴露しながらコントするんじゃない!!」
「本当にわかってないんですよね! 柏木、おさげ引っ張るなんて馬鹿としか思えませんよ」
「須賀、お前もだ!!」
須賀は知ったように口をとがらせて柏木にプリプリする。
「ほら見ろ、連帯責任取らされただろ!!」
「須賀、違う」
勝田は友の会では幹部。若手の馬鹿二人に手を焼いていた。
成浜市大、閉鎖病棟。ある日の朝、ほのかの近くにナースがやってくる。
「元の感覚、思い出さなくちゃね」
ナースがほのかの個室のTVをつけると映像が映った。
――加害者を特定できることするんじゃねーよ! 集団ストーカーは法に抵触することしないんだよ!
――おさげ引っ張るの、法に抵触するのか?!
――そうじゃないけど、おれたち加害者は偶然を装っているんだ! 被害者の被害妄想に仕立てられる攻撃しかしないんだよ!!
――おれたち加害者だったのか!?
――そうだよ!
TVをつけた者も含めて、周辺ナースが一斉に悲鳴を上げる。
「TV消して」
「リモコン、言うこと聞きません」
病棟の液晶という液晶が薬剤師二人のコントを放送し始めた。
「院長! ハッキングを受けています!!」
医療関係座が全員、大パニック。
「??????」
翌日ほのかは、ナンだかわからないうちに強制退院させられた。
(続く)
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