完成

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放課後、 今日の俺は剣道部の練習が無い日なのでのんびり帰宅予定だ。 だが少し気になる事が有る。 それはアレだ。 昼休みに担任が俺の前に立ちはだかり、テストの成績が悪すぎるので今日の放課後から補習だ!と言っていた事だ。だがそんな面倒な事は当然ブッチぎる事にしている。 しかし今から家に帰ると少し都合が悪い。 自宅では父親が剣道道場をやっているので早く帰ると手伝わなければならない。なのでそこそこ遅い時間までゲーセンにでも行って時間を潰そうかと思っている。 靴を履き替え校舎を出ると何やら人が集まってザワザワしているのが見えた。どうやら何かイベントが発生したらしい。 興味深々で野次馬を掻き分けて中心部に分け入ると・・・ あ!  そこには俺と同じクラスの大和清(やまときよし)が両手をグウに握って肩を震わせながら立っていた。 大和の目の前には美人で有名な先輩が立っている。 これはアレか!  告白か!! 「う~」 近くで唸り声が聞こえたので横を見ると同じクラスの清楚系貧乳女子、(つるぎ)さんが野次馬にまぎれていた。 彼女のことは容姿も性格もかなり好みなのだが、席が離れている事もあって交流が全くできていない。 そしてこれは剣さんとお喋りする絶好のチャンスである。 「なあ、これって告白現場だよな、結果はどうなんだ?」 「返事はまだよ」 「あの先輩って長曽我部小路撫子(ちょうそかべこうじなでしこ)先輩だよな」 「良く知ってるわね、しかもフルネームで」 「学年別成績順位表でいつも上位だしやたら長い名字だから知ってるだけだよ」 「君は勉強ができないから先輩の事が(うらや)ましくて覚えているのね」 「勉強ができないってどうして知っている!!」 「補習で居残りだと言われてたじゃない。あれ? どうして帰ってるのよ」 「そんなの俺の自由だろ!」 どうやら担任に言われてた現場を見られていたらしい。 「ちゃんと勉強しないと後で困るわよ」 ・・・・・・ 話しが変な方向に逸れたので話題を変えた。 「長曽我部小路撫子と大和清って名字と名前を合わせると文字数に差が有り過ぎだと思わないか」 思った事を口走ると・・・ 「それが今何の関係が有るのよ!」 剣さんからキレ気味の言葉が返って来た。 そうこうしていると長曽我部小路先輩が動くのが見えた。 先輩は一歩前に出ると大和の右腕を掴み耳元で何かを囁いた。 大和はその言葉を聞くと硬く握られた拳を緩めて両手を開き唐突に長曽我部小路先輩を抱きしめた。 その光景を見た野次馬達は二人が出来上がった事を悟り拍手と喝采を送った。 俺と剣さんも顔を見合わせながら喜んだ。 そして騒動が収まると同時に俺達は二人でその場を離れた。 ── 夕日が眩しい帰り道、俺はある事に気付いた。 もし大和と長曽我部小路撫子先輩が結婚したら長曽我部小路先輩の名字が大和に変わって大和撫子となる。これは完璧な4文字熟語が完成すると言う事である。 これはこれは、是非とも結婚してもらいたいものだ。 そんな事を考えながら歩いていると剣さんの視線が横から突き刺さるのが分かった。だが俺は気付いていない振りをしてやり過ごした。 ・・・・・・ しかしあまりにも長い時間、30秒くらい直視されたのでいたたまれなくなり口を開いた。 「俺の顔に何か付いてる?」 「わたし、君の言葉で気付いたの」 「何を?」 「名字と名前を合わせた時の文字数の違いってヤツよ」 「いや、あれは冗談でだな」 「君は文字数が違い過ぎると恋愛対象として釣り合わないって言ったけど私は違うと思うの」 「いや、恋愛対象として釣り合わないとまでは言ってないぞ」 「黙って聞きなさいよ!」 「うん」 「さっきの二人の事を踏まえて考えると、文字数の違いって有ればあるほど相性が良いんじゃないかしら」 「いや、そんな事は・・・」 「そうなると君のフルネーム、小比類巻豪侍(こひるいまきごうし)と、私のフルネーム、剣香(つるぎかおる)も文字数にかなり違いがあるから相性が良いと思うのよ」 「そ、そうかもな」 って何で俺のフルネームを知ってるんだよ! 俺が動揺しているとその隙を突いて剣さんが右腕に纏わりついてきた。 そして耳元で囁いた。 「どお、私達も・・・」 その言葉を聞いた俺は全身が震えた。 そしていつの間にか剣さんを抱きしめていた。 「ちょっともう~ いきなり過ぎよ」 「俺と付き合ってくれ!」 俺の告白を聞いた剣さんは目線を逸らしてドキドキしている。 密着部分である小ぶりな胸の奥から心臓の震えが伝わって来るのが分かる。 しばらくして、20秒後に剣さんの心臓の震えが徐々に収まり、体をゆだねてきたので俺はここぞとばかりに回答を迫った。 「返事をもらえるかな・・・」 「どうして結婚してくれじゃないの?」 間髪入ずにとんでもない言葉が返された。 結婚? どうしてこの時点で結婚なんだ? もしかして俺の告白が冗談だと思われているのか? いや彼女の顔が赤みを帯びている。 夕日の赤では無く紛れも無くテレている赤だ。 これはマジだ! しかし・・・ 「俺達はまだ高校生だぞ」 「覚悟が無いのに私を抱きしめているのかしら?」 「覚悟って・・・」 「ヘタレね」 ここはキメるべきか?  いやいや、早まってはダメだ。 この場面で幼少期に聞かされた父親の言葉が脳裏をかすめた。 おい豪侍、 お前にはまだ早いかもしれないけどこれだけは伝えておく。 剣士の太刀筋に旬があるように恋愛にも旬が有るんだぞ。そのタイミングを見誤るなよ。 ありがとう、オヤジ。 ようするにここでキメろと言うことだな。 「俺と結婚してくれ」 「わたし長女なんだけど」 ウッ! 「婿養子か、俺は三男だから問題は無いと思うぞ」 「それは良かったわね」 「おうよ!」 「それじゃ結婚した暁には剣豪侍(つるぎごうし)ができあがるのね」 「おお、それって短くて良いな」 「とも読めるわね」 「それはすげ~な~!!」 彼女と結婚すれば剣士して最高の名が完成する。 だがしかし・・・ 今の俺の剣士レベルではこの名は重い。 「俺はその名に恥じぬよう精進して立派な剣士になる事を君に誓うよ」 「その前に勉強する事を誓いなさいよ」 END
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