食事のお誘い

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 俺が知っている志尊さんは、いつも背筋を伸ばしてキビキビ動いている印象だった。言動に迷いがなく、ためらうといった仕草を見たことがなかった。  驚きというより戸惑いを感じながら、俺は志尊さんの次の言葉を待った。 「あの、その、私が辞める前に、食事に行きませんか?」  ああ、ごはんね。何事かと思ったけどそんなことか。  俺は人差し指と親指で小さな丸を作りながらOKとつぶやいた。 「じゃあ、また連絡します」  そう言うと志尊さんは小走りでどこかへ行ってしまった。  俺はまた、少しの寂しさを感じた。しかし、今度はその気持ちの原因を考えることはしなかった。  今までも仕事仲間が辞めたことは何度かあった。  そのたびに感じていた、親しくなった仲間がいなくなる寂しさと、この気持ちは同じなんだろうと思っていた。  そう思うようにしていた。
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