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わたしたち
「迷える子羊たち、集ったのですね。さあ、みなで懺悔し、祈り、誓うのです。さすればきっと道は見えだすのです。我らの神が、道を照らし出してくれるのです」
小さな教会に十二名の男女と、みすぼらしい修道女が一人。蜘蛛の巣がところどころ垂れている。仏が垂らした救済の糸などではなく、私たちを馬鹿にするために蜘蛛が垂らした糸である。
信者達はみな外見だけは一般人で、何も問題などなさそうな人間ばかり。何を機に入信したのかは知らないが、もう行くところまで行ってしまっている。
私たちは修道女を中心として、地面に這いつくばり、鼻、頭、足を地面に擦り付け、神に対して最低な人間になるのだ。
そして懺悔を始める。今日あった出来事を、全て自らの責任に問うのだ。
「今日、自らの肉親を事故に合わせてしまいました!母は片足をただの肉片に戻し、父は意識が戻りません!全て私の責任なのです!」
「今日友人は何も成せませんでした!友人は与えられた義務である課題を全く成し得ませんでした!私の責任です!」
「親が今日も飯を作ってくれました!このゴミである私に対して飯を用意し金を無駄にしたのです!全部私の責任です!」
.....
教会の木造の床に声が吸い込まれていく。順にではなく全員が同時にこれを行う。私は今までしたことはない。
学生、年老いた者、ただの会社員、穀潰し。多種多様な人間達が全員これを良い行いだと信じきっている。
この最低な人間達は皆これが正しいと思い込んでいるのだ。皆これを秀美だと思うのだ。そして、神を崇めるのだ。
この世の全ての起こり得る現象は神の気まぐれでも偶然でもなく、全て“自らの責任”だと。
「皆さんよく言いました。では神に祈りを」
「ありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございますありがとうございます」
祈りも知らない愚鈍者共が。
ここに集う者は素晴らしいほどに学がないのだ。
祈りの意味も知らずただ同じ言葉を並べ、連ね、それを発するだけ。学も教養もない。
彼らに神は頭脳を与えなかったのだろうか。神の都合のよく扱えるように頭脳を与えず、自らの優越感を満たすための道具にしたのだろうか。
私には神を信じる心がないのだ。無神論者で、倫理の欠如が見られるらしい。だからこの宗教に入信した。私は私を笑うために。
「今日はこれまでに致しましょう。皆さんしかと神に誓ってからここを出てくださいね」
やっと醜い時間が終わる。この時間が終わりを迎えたら、私にはせねばならぬ事があるのだ。
「秋山さん」
「あ、由佳ちゃん!」
「これ秋山さんのハンカチでしょ、また落ちてた。気をつけて」
「また落ちちゃってた?ありがとう、気をつけます」
ふわりと甘い笑み。あ“ぁ。甘すぎる。だがこれくらいが丁度良くて、これくらいじゃないと足りない。苦味なんてなくなればいいのだ。彼女だけがいれば、この世は全部甘くなる。
彼女は秋山ゆうか。身長百五十六センチ、体重四十九キロ、年齢は二十三。アパレルショップの店員をしている。彼女もこの気味悪い宗教に入信しているが、美しいのだ。
彼女はいつもキンモクセイの匂いがする。
「由佳ちゃん。次来る時の帰りさ、一緒にカフェでもどうかな?」
「もちろん」
私は彼女に恋している。
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