わたし

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

わたし

気づけば瞳はあなたを映しだしているのです。意識はなく、ただ呼吸や心臓の鼓動と同じように、わたしの意識外の行動として体に刻まれているのです。あなたはわたしを愛しているのです。 ぽた わたしは縫い付けられた様に動けません。固定されているのです。あなたを見離すまいと必死なのです。この目にこの脳にこの心臓にあなたの印を刻もうと必死なのです。 あなたのやわらかい栗毛はゆらりゆらり、可憐でほのかなキンモクセイの香がいたしました。 ぽた わたしはその香に誘惑されました。あなたはこちらを向き、憂いを被った表情でなにか訴えているようでした。ですが、わたしにはわかりません。 肌寒く、じわりと色づく頬とささやかに震える指先があったのです。飾り気のない指がわたしの方へ方へと伸びてくるのです。 ぽた その指先が、あなたの神経が、あなたの細胞が、あなたそのものが、わたしに触れそうになりました。 その刹那、わたしは ! わたしとあなたは秋に出会い、冬に終わったのだ。 せいぜい二、三ヶ月の間、あなたは私に全てをくれた。あなたと出会い、私は幸せだった。 惑わされ、翻弄され、泣き喚き、心臓が破裂する様な日々。こんな日々でも幸せだった。 永遠を願った。この日々に永遠を、と。だが、叶わない。ならばもうひとつだけ わたしはあなたなのです。 あなたはわたしなのです。 わかりませんか
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!