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第20章 准教授と中野佳奈
中野「先生、私は先生の親戚だったんですね」
帰りの新幹線の車窓からすっかり暗くなった景色を眺めながら二人は話をしていました。
准教授「正確には君は私の『いとこ姪』ということになるね」
中野「昭進堂さんの話を聞いていたら、私は吉田の人間だったんだって、そんな風に思えて来たんです」
准教授「でも君は中野の人間だろう?」
中野「そうですが、阿部だった母が本当は吉田だったと知った時に、なんかそんな気がして来たんです。だって、一人っ子の母が阿部を離れて中野になったのは、阿部に対する拘りがなかったからだと思うんです。どうして拘りがなかったのかというと、母の父の杢蔵も、その母のサキも、更にその父の杢助も、吉田の人間だという意識が強くあったからだと思うんです。しかもみんなあの墓域に埋葬されたわけですし」
准教授「自分が本当は吉田の人間なんだという強い意識があったのは、杢助さんが兵役を逃れるためだけに阿部家に入ったからだね?」
中野「はい。それに祖母のサキは吉田傳右衛門さんと一緒になるはずだったんです。それが叶っていれば阿部サキではなくて吉田サキだったわけです。そうなると祖父は吉田杢蔵ですし、母は吉田佳子でした。あ、吉田佳子って、『よし』が重なって、なんかちょっとおかしいかもしれませんが。そしてそうだったら母は中野姓には成らずに吉田の姓のまま結婚していたような気がするんです。だって、あの古い天冠墓標に手を合わせていた時の母の顔は、とても優しそうで綺麗だったんです。きっと好きだったんです、あの場所が、あのお墓が、そして吉田の家が。だからきっとそうなっていたと思うんです」
准教授「では君はどうするんだい? 吉田の苗字の人とでも結婚するかい? それとも養子にでもなるかい?」
中野「先生の養子になってもいいかな」
准教授「おいおい、それじゃあ君のお父さんはどうするんだい? 悲しまないかい?」
中野「じゃあ、先生のお嫁さんにしてくれませんか?」
准教授「え」
中野はそう言った後、准教授の顔を凝視しました。先生の雰囲気は好きでした。外見も嫌いではありません。それに今回の先祖探しを通じて気心も知れたように思いました。先生の家は自分と同じ八王子だったので、両方の家を行き来することは容易いと思いました。父の面倒も苦にならずに看られます。
准教授「だって君とは歳が離れすぎていないかい?」
中野「私は今年二十歳です。もう大人ですよ。先生はおいくつですか?」
准教授「今年43だよ」
中野「23歳差か、どうしようかな」
中野は最後にそう言って笑いました。
准教授「どうしようかなって、その話は君から振って来たんだよ。それは私のセリフだよ」
中野は准教授にそう言われて今度は声に出して笑いました。するとどこからか昔母が彼女に言った言葉がよみがえって来ました。
「佳奈、あなたの望むことが『かな』うように、あなたが望むことを『かな』えるようにと、それであなたを『かな』と名付けたのよ」
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