4人が本棚に入れています
本棚に追加
第4章 中野佳奈
中野佳奈は平成16年(2004年)に東京で生まれ、東京で育ちました。高校は都内23区内にある女子高に通っていました。しかし多摩に住んでいたこともあり、大学は自宅に近かった中央大学を受けて、そこに進学することにしたのです。
中野は父と二人暮らしでした。父の食事を中野が作っていたので、大学は自宅から近い方が勝手が良かったのです。中野の母は中野が高校1年生の時に他界しました。中野は高校を卒業すると働きに出たいと父に言ったのですが、父は母が娘の大学進学を願っていたからと、進学を強く勧めました。中野はそう言ってくれた父の為に、母の代わりになって父の面倒を看たいと考えたのです。
父「佳奈、新学年が始まって大学の雰囲気はどうだい?」
大学の雰囲気を問う父に、中野は父の気遣いを感じました。
中野「勉強は進んでるよ」
それで敢えて「勉強は」、という表現を使うことにしました。いざ大学に通ってみると、そこはそれまでの学生生活とはまるで違っていました。学校の雰囲気よりも自分がどれだけ積極的に勉強に向き合うかが一番大事だと感じたのです。それで大学の雰囲気の良し悪しではなく、自分の勉強は進んでいると父に答えたのです。
父「するといい感じだということかな?」
中野「うん。ちゃんとやっていけそう」
中野が笑顔で父に答えると、中野の父は満足したように笑みを返しました。
父「母さんも喜ぶな」
そして独り言のように父は言いました。中野はそれは聞こえない振りをしました。母のことを思うと悲しくなるし、母が望んだから大学に行ったという話になるのは嫌だったからです。
中野は両親の思いとは離れて、大学での勉強に専念したいと思っていました。結果、父や他界した母が喜ぶような成果を上げるのは良いと思いました。でもそのような結果にはならずに、中野が大学に通うことだけで両親が喜ぶということにはしたくないと思っていました。
父「父さんは理系だったから、文学部の講義にどんなものがあるのかよくはわからないけど、佳奈はどの講義がお気に入りなんだい?」
中野「え?」
中野が違うことを考えていると父から意外な質問をされました。
中野「第2外国語のフランス語の授業も楽しいけど、1番はお墓の講義かな」
父「お墓?」
中野「うん。お墓」
父「お墓って、終活について学ぶのか?」
中野「終活? 大学生にはまだ必要ない話じゃない。そうではなくて単純にお墓について学ぶのよ」
父「今の大学は変わった講義があるんだな」
中野「うん。変わってる。でもとっても興味深いの」
父「へえ、興味深いとはまた深い言葉だな」
中野が「興味深い」と言ったのは、それは先日の第3回目の講義の内容が彼女にそう思わせたからでした。
最初のコメントを投稿しよう!