35人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前ら別に興味ねえなら、俺ひとりで作戦遂行するし」
「いや、別に協力するけどさ……」
金谷がそう呟いた。
「それより今度の進路相談のときに野原とマンツーマンになれるチャンスじゃん」
岩津が思い出したように言った。
保健室で怪我の治療をしたとき以来、野原とふたりだけになれるチャンスだ。
曇っていた表情に少しだけ日が差し込む。
でも、焦ってはいけない気がした。
野原に気持ちをまっすぐ伝えるにはどうしたらいいのだろうか。
「お前らってもう進路決まってんだっけ?」
「ああ、うん」
「俺も地元の食品加工会社に決まってる」
――そういやこいつらは就職組だっけか。
――俺も結局母さんの手伝いしてるしな。
「そっか」
カウンターの奥で食器を片付けている物音がした。留美が手際よく手を動かしながら深山に話しかける。
「友達と喋ってるのもいいけど、ちょっと手伝って」
「はいはい」
丸椅子を壁の隅に重ねて置いて、テーブル席から離れる。すると深山の様子を見ていた金谷が一声かけてきた。
「じゃ、またな」
「おう」
「作戦っつうか野原と話うまくいくといいな」
岩津が微笑みながら話す。続けて店を出て行くときに「ごちそうさまでした」と言った。
「まだなんにも話せてねえけどな……」
深山は独り言を呟いた。
ふたりが食べていった食器を重ねてお盆の上に乗せて留美の側まで運んだ。
「あのさ……進路のことなんだけど……」
カウンター越しに留美に声をかけた。
留美はなにか悩みごとでもあるのかと一旦手を休める。
「なにかやりたいことでもあるの?」
「あー……そういうんじゃないけど、俺母さんの店の跡継ぎたいかなあって思ってさ」
「あらそう!」
留美の顔が綻んだ。
母親には前向きなことを言っておかないとあとで心配されるかもしれないと深山は考えた。本当は野原と一緒になりたいとか言ったら、留美は驚くに決まっている。だから留美に話すにはまだ早いと思った。
「だから今度の面談でちゃんとはっきり言っとかねえとと思って」
「そうね。あんたがちゃんとまっすぐした子に育って良かったわ。母さんホッとした」
留美は安堵して再び作業に入った。
「おう……」
深山はテーブルを拭きながら自分の発言を思い返していた。留美を安心させたくて吐いた言葉に嘘はない。けれどももし自分の息子が教師と付き合いたいなんて言いだしたら反対されるだろう。
こんな不良と教師が……しかも相手は男。深追いしてはならないことだが、深山は野原に進路を話すついでに気持ちをぶつけたいと考えていた。
――どうしたらちゃんと伝わるのかなあ。
まずは野原の連絡先を聞き出すことからだ。
「よしっ! 気に入られたい作戦実行するぞ」
いつの間にか日が沈んでいた。
店内の清掃も終わり、二階に上がって留美より先に晩御飯を食べた。
風呂に入ってるときも寝る前も深山の頭の中は鬱蒼とした顔の野原でいっぱいだった。
最初のコメントを投稿しよう!