動き出した歯車

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動き出した歯車

 「よっしゃ。一位だ」  廊下に貼られた一学期の中間テストの結果を見て生徒は嬉しそうな声を出した。 堂々の第一位。 少なくとも勉学で彼……天海龍一は一年生の中で頂天へと立ったのだ。 ……あくまで勉強だけ。  「ハァ……」  教室に戻って落書きやゴミが詰められた机を見て溜め息を吐いた。    『空気』 『陰キャ』 『勉強しか出来ない無能』   まぁ、様々な言葉が書いてある。 ……昔からこうだ………。 龍一は昔からクラスに馴染めずすぐに虐められていた。 小学生も中学生の時も……自分の振る舞いにも何か問題があるのだろう。 大人しくしていても高慢ちきに捉えられてるのかも知れない。 ―いいんだ。どうせ俺は……。いい大学出て起業してやる。 ……金だ金さえありゃあこんな辛いことだって何れ忘れられる。 ゴミを捨て龍一は席に着いた。 それを眺める二人の瞳に気づかないまま。 ――――――下校時刻。 龍一の下校ルーティンは家に帰る事だけだ。 買い物するのは新しい参考書等が出ている時だけである。 故に彼の帰宅時間を知ってる生徒は多いのだ。 「おーい。天海君」 馬鹿にしたような声が龍一を止めた。 声の主にうんざりしながら龍一は声がした方をゆっくり振り向く。 「なんだい。鬼喜田君」 鬼喜田修也。 一年生の中でも有名な不良。 仲間の柳田快人と佐藤玲音がニヤついてる。 「おぉ!。反応した反応した。嬉しいなぁ。天才な天海君が俺みたいな馬鹿に反応してくれて!。な!、親睦を深める為に茶店にスタボにでも行かね?」 「ごめん…。勉強したいから」 「さーすが!。優等生君。修也のお誘いを断るとは!」 「修也みたいな奴と遊ぶのは嫌いなのかなぁ?」 「あぁ。そうだ嫌だよお前達みたいなのとつるむの」と言いたかったがそんな勇気は龍一にはない。 「すまない本当に無理なんだ」 「へぇ~。オッケー俺とは茶も飲みたくないってわけだな」 「そんな事は言って……!」 言い掛ける前に修也の蹴りが龍一の腹に入る。 「テメェ!。勉強出来るからってイキッてんじゃねぇぞ陰キャ!」 ―そんなこと思ってない……。関わりたくないだけだ。 「テメェらもヤキ入れろ!快人!玲音!」 「「おう!」」 日常は一瞬で地獄へ……。龍一は三人から殴る蹴るの暴行を受けた。 周りの生徒は誰も助けない……寧ろ写真や動画を撮ったりと龍一を嘲笑うかのようだ。 「はぁ~。スッキリしたわ。これからも俺らの憂晴らしであってくれよな龍一君!」 ハハハハハ!と三人の煩わしい笑い声が頭に響く……ただでさえ身体が痛いのに……嫌な声が頭に響く……。   「畜生……」 龍一はいつの間にか泣いていた。 不様な姿だ。 死にたくなるくらい。 立ち上がりかけた龍一の手を一つの手が握る。 その拳は硬くも凄く温かかった。 「よぉ。蛇禍高一年の勉強の頂天(てっぺん)。喧嘩は苦手なようだな」 「ありがとう。確か君は……同じクラスの柊正義…。ありがとう……こんな俺に手を差し伸べてくれて」 「なぁにこれぐらい大したことねぇよ。困ってたら助ける俺のポリシーだ」 「……素晴らしいポリシーだ。俺とは大違いだな。たまに俺の机が奴等に散らかされても綺麗にしてたのも君のおかげか?」 そうすると「バレてたか」と照れ臭そうに正義は頭を搔いた。 「おかげだなんて大袈裟な言葉使うなよ。それより天海……お前悔しくないのか?奴等にやられっぱなしで」 「悔しいが昔から俺は虐められてんだ……どうしようもない」 小中高と自分へのイジメは続いていた。 誰か地元内でも強力な奴が指示してるのかもしれない……反撃するにしたって敵が多すぎたらソイツは嘲笑うだけだ。 「昔からだと……」 「あぁ。誰か俺を恨んでるのかもな。でもいいんだよ。俺が我慢すりゃ誰も傷つかない……」 「それはどうかしら」 背後から少女は声を上げる。 「君も同じクラスの橘朱音……」 赤い髪飾りに肩まで延びたショートヘアーに美しい顔立ちは恋愛経験0の龍一ですら目を引かれる。 彼女は成績二位で龍一の次に頭が良い。 「おう、朱音」 「放課後にアンタの馬鹿面見るなんて私もついてないわ正義」 「またまたぁー。冗談きついお嬢さんだぜ!。早く俺の告白受けてくれよな〜」 「誰が…」 「ふふふ……。仲がいいな君等。羨ましい」 「何言ってんだ龍一!」  ガシッと強く正義は龍一の手を握る。   「俺はよ、お前をすげえと思ってるんだぜ!奴等の理不尽にも屈しないたった一人で戦う!お前は戦い方を知らないだけだ!そして仲間も!俺がお前のダチになってやるからな!」 「本気で言ってるのか……俺といたら何されるか……」 「関係ねぇよ!。腕っぷしには多少自信があるし仲間はもう一人いるからな!。なぁ朱音!」 「はぁ!?。なんで私も!?」 「友達の友達はダチだ!それに友達は多い方がいい……なっ!朱音!」 「……ハァ。分かったわよ。あいつらのやり方は気に食わないしあいつらと戦う龍一君を応援する為に友達になるわ。宜しくね龍一君」 龍一は夢を見てるようだった。 一日の内に友達が二人出来るなんて……。 思わず涙が溢れる。 「ありがとう……正義!朱音!」 「泣くんじゃねーよ!。これからは俺らも一緒だ龍一」 「ふふ。私の学校生活も賑やかになりそうね」 今ここに志を共にする三人が集まった。 誰が龍一を虐めの主犯なのか……龍一はどんな進化を遂げるのか……これからの龍一次第だ。 ―耐えるだけの生活は終わりだ……俺は絶対強くなる!。
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