26.守る手

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「それに、俺のこんな姿を春子には見せられない」  虎将と一瞬目が合い、すぐにそらされた。 「そうか、わかったよ」  東雲はため息を吐き、春子の身体を起こす。  ずっと拘束されたままだったので身体がうまく動かず、ふらついてしまう。 「陽太くん!」  東雲はふらついた春子の身体を支えながら陽太を呼んだ。陽太が駆け寄ってくる。すると東雲は陽太の肩を叩き、春子を陽太に預ける。 「春子ちゃんを頼んだ。琴も事務所に連れて行ってくれ」 「し、東雲さん!?」  陽太が慌てた声を出す。 「陽太くん悪いね。虎将、俺も参加させてくれよ。せめてもの詫びだ」  東雲が虎将に声をかけると、虎将は数秒考え口を開いた。 「……ああ。しかたねえな」  そう言いつつ虎将はうれしそうだった。  陽太は男たちの隙をついて春子の縄をナイフで切った。身動きが取れるようにはなったが、恐怖から身体がうまく動かない。それでも彼らの足手まといにはなりたくないと、足を無理やり動かして歩みを進める。 「春子さん、大丈夫ですか」 「……はい。でも虎将さんが……」  自分のことなどどうでもいい。中で闘っている虎将たちのことだけが気になる。 「組長たちなら絶対に大丈夫です。ひとまず安全なところに行きましょう」  いくら心配だからといっても春子にできることなどない。この場にいること自体が足手まといになる。  春子はぐっと堪え、黙って出口へ足を進めた。  外には何人もの男たちが倒れていた。先ほどの短時間で陽太と東雲が始末した男たちだ。 「春子さん、車に乗ってください!」  陽太が後部座席のドアを開けた。中には琴が寝転がっていた。まだ意識がないみたいだった。  虎将が気がかりだったが車に乗り込もうとしたその時。 「ヒーローぶってんじゃねえ! 春子を返せえ!」  義父の大きな声が耳に入り咄嗟に振り返る。  すると義父が勢いをつけて虎将に体当たりをしていた。あんな小さく老いた身体では意味がないだろう。そう思っていたのに、虎将は苦しみ出した。 「ぐ……」  虎将はお腹を手で押さえながら、膝をつく。彼のお腹にじわりじわりと血が広がっていくのが見えた。 「……虎将さんっ!?」 「ひ、ひひ……やってやった……!」  義父は手を震わせながらも笑っている。義父はナイフを持っていたのだ。  春子はそれを見て全身の力が抜けていく。 「虎将さん……そんな……いやあああっ!」  悲鳴のような声を上げ、虎将に駆け寄ろうとするも、後ろから陽太に止められた。
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