02.二人の朝

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「ここだな」  目的地には三十分ほど車を走らせて到着した。虎将は先頭を切って雑居ビルの階段を上る。二階にあるヒガシキャッシュサービスのドアを迷うことなく、虎将がノックした。 「……失礼」  室内に入ると、ここに来るのは初めてなのに既視感があった。顔が怖いチンピラ風の男性たちが一斉にこちらを見る。 「……どなたです? ってあれ? 園田さんじゃないですか。電話無視すると思ったら何の用ですか?」  春子の家に来ることが多い闇金の男の一人が立ち上がり近寄ってくる。虎将は闇金からかばうように春子の前に立った。 「これ、とりあえず四十万ある」  虎将が分厚い茶封筒を男に差し出した。男は怪訝な顔をしつつ封筒を受け取り、中身を確認するとにやりと笑った。 「まだ利息分だけで二百万残ってるんですよねえ」 「……その利息、無くしてくれないか?」 「……はあ?」  男の目つきが変わる。 「ちょ、ちょっと虎将さん!」  春子は焦って彼の腕を引く。借金をしたのは春子のほうなので、利息もきちんと払わなければいけない。いくら虎将が怖い顔をしているからって、無理なお願いというものだ。男もさすがに態度を大きく変え、他のスタッフらしき人たちも立ち上がりにじり寄ってくる。 「明らかに法外な利息だってわかってるんだろ?」 「そんなのあんたに関係あんのかよ? 俺らのバックには怖いお兄さんたちがいるんだぜぇ?」 「知ってる。東雲組だろう」 「え」  虎将が堂々と答えるので、男たちは呆気に取られている。 「俺は吾妻組のもんだ。東雲とは兄弟やらしてもらってる」 「……お、叔父貴でしたか、失礼いたしました!」 「いや。東雲が経営してる会社については俺もよく知らない。こんなことをしてるなんてついさっき知ったくらいだ」  闇金のバックには虎将が知る人がいたらしい。なんという偶然だろう。 「今朝あいつにも話をした。法外な取り立てはやめろってな。お前のほうにも話がいってなかったか?」 「え、ええ……ですが」  男たちは顔を見合わせ、もごもごと何か言いたそうにしている。 「いいから、上の言うこと聞かないとまずいんじゃないか?」 「……へ、へい」 「それから、園田春子が借りた金は必ず返すからしつこい電話もやめてくれ。返済については俺が保証する。何かあったら吾妻組に話を通してからにしてくれ」 「……わかりました」  男たちはさすがになにも言えなくなったのか、先ほどの威勢はどこへいったのか、大人しくなりあっさりと承諾してくれた。 「じゃあな、頼んだ」  無事に話が終わり、ビルを出る。ビルの前に停まっていた陽太の車に乗り込んだ。 「これでしつこい電話もなくなるだろ。次の返済は振込みにすればいいし、俺がまたついて行ってもいい」 「虎将さん……本当にありがとうございました」  お金もそうだけれど、さらに交渉をしてくれた彼には純粋に感謝の気持ちでいっぱいだった。 「いや。俺の兄弟が悪いことをした」 「兄弟って……」 「一応言っておくが、血のつながった兄弟じゃない。同じ組長に世話になって兄弟盃を交わした仲だ」 「な、なるほど……?」  専門用語を使われても春子にはよくわからず、首を傾げる。虎将と一緒にいることで徐々に極道組織について詳しくなっている気がしてわずかな抵抗感が残っている。とはいえ、虎将と東雲組の組長はそれほど親密な仲だということはわかった。  その後春子のアパートに行き、必要最低限の荷物を段ボールに詰めて車に積んだ。貧乏生活をしていたおかげで物は少ないし、男手があるおかげであっという間に終わった。あとは家具などの車に乗らない大きな物だけだ。  持ってきた荷物は虎将の家の、春子の部屋として割り当てられた部屋に運び込んだ。仕事を終えると陽太はすぐに事務所に行くと出て行き、すべて終えると夕方になっていた。最初から最後まで虎将は春子の手伝いをしてくれた。 「今日はありがとうございました」 「とりあえずは終わってよかった。夕飯はどうする? 外で食うか」 「あ……ごめんなさい、私これからバイトがあるので、帰りは遅くなります」  昨日は休みだったけれど、今日の夜はバイトだ。 「バイト?」 「はい。夜はファミレスでバイトしてるんです」 「ああ、そういえば昨日言ってたな。じゃあこれ、鍵渡しておく。連絡くれれば迎えに行くから」 「……ありがとうございます」  虎将の優しさにはまだ慣れないし、鍵をもらってこの家に帰ってくるのもまだ違和感がある。それでも、今日からここが春子の家だ。
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