26.守る手

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「俺が何を言っても無駄というわけか」 「その通りだ」  相原が手を上げると、周囲の屈強な男たちが構える。ピリリとした戦闘態勢に肌が粟立つ。  こんなの、どうなってしまうんだろう。春子は何もできない歯がゆさに唇を噛む。 「やれぇ!」  相原の怒号を合図に、虎将を囲んでいた男たちが動き出す。しかしそれよりも虎将が動き出すほうがはやかった。  虎将は次々と、男たちの銃を持つ手をはたき銃を落とす。銃を遠いところへ蹴飛ばし、関節技で屈強な男たちを倒していく。  その姿は鮮やかで、春子は次々と男たちを倒していく彼の姿に見とれてしまっていた。  虎将のあんな姿を見たのは初めてだった。武器も持たない虎将が屈強な男たちを地面に沈んていく。怖いのにヒーローのようにかっこよかった。あれほど強いのなら、この場も収めることができるのではないか。  そんな希望が春子の頭を過った。  けれど、それほど甘いものでもないみたいだった。  倒れていた一人の男が、ゆっくり這い上がるのが春子の視界に映った。その男は地面に転がっている拳銃を手に取った。 「虎将さん、後ろっ!」  春子は嫌な予感がして声を上げていた。  虎将は背後を振り返るが、きっともう遅い。男は銃を向けている。  やめて、そう叫びたいのにあまりの恐怖で声にならない。  その時、どこからか現れた男が拳銃を持った男の腕を掴みひねり上げる。地面へ倒すと拳銃を奪い取り、男を殴る。  虎将はにやりと笑った。 「……遅いぞ」 「悪いな。待たせた。外にも大勢いるもんでね」  外に出たはずの東雲が戻ってきたのだ。間一髪で助かり、春子はひとりで胸を撫でおろす。でもまだ終わってはいない。 「薫。春子たちを連れて逃げろ。俺は始末をつける」 「は? 一人でやるのか? 俺も……」 「お前はケガをしてるだろう。陽太もいるから問題ない」 「殺るつもりなのか?」  東雲の声がワントーン低くなった。東雲の鋭い瞳に虎将も顔つきが変わる。 「……今までは襲撃されても黙っていたが、春子や会長に手を出されたら許すわけにはいかない」  虎将は拳を作る。彼はナイフや拳銃など持たずに、素手で戦うつもりらしい。さすがに無茶だ。相手は拳銃を持っている。
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