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「それに、俺のこんな姿を春子には見せられない」
虎将と一瞬目が合い、すぐにそらされた。
「そうか、わかったよ」
東雲はため息を吐き、春子の身体を起こす。
ずっと拘束されたままだったので身体がうまく動かず、ふらついてしまう。
「陽太くん!」
東雲はふらついた春子の身体を支えながら陽太を呼んだ。陽太が駆け寄ってくる。すると東雲は陽太の肩を叩き、春子を陽太に預ける。
「春子ちゃんを頼んだ。琴も事務所に連れて行ってくれ」
「し、東雲さん!?」
陽太が慌てた声を出す。
「陽太くん悪いね。虎将、俺も参加させてくれよ。せめてもの詫びだ」
東雲が虎将に声をかけると、虎将は数秒考え口を開いた。
「……ああ。しかたねえな」
そう言いつつ虎将はうれしそうだった。
陽太は男たちの隙をついて春子の縄をナイフで切った。身動きが取れるようにはなったが、恐怖から身体がうまく動かない。それでも彼らの足手まといにはなりたくないと、足を無理やり動かして歩みを進める。
「春子さん、大丈夫ですか」
「……はい。でも虎将さんが……」
自分のことなどどうでもいい。中で闘っている虎将たちのことだけが気になる。
「組長たちなら絶対に大丈夫です。ひとまず安全なところに行きましょう」
いくら心配だからといっても春子にできることなどない。この場にいること自体が足手まといになる。
春子はぐっと堪え、黙って出口へ足を進めた。
外には何人もの男たちが倒れていた。先ほどの短時間で陽太と東雲が始末した男たちだ。
「春子さん、車に乗ってください!」
陽太が後部座席のドアを開けた。中には琴が寝転がっていた。まだ意識がないみたいだった。
虎将が気がかりだったが車に乗り込もうとしたその時。
「ヒーローぶってんじゃねえ! 春子を返せえ!」
義父の大きな声が耳に入り咄嗟に振り返る。
すると義父が勢いをつけて虎将に体当たりをしていた。あんな小さく老いた身体では意味がないだろう。そう思っていたのに、虎将は苦しみ出した。
「ぐ……」
虎将はお腹を手で押さえながら、膝をつく。彼のお腹にじわりじわりと血が広がっていくのが見えた。
「……虎将さんっ!?」
「ひ、ひひ……やってやった……!」
義父は手を震わせながらも笑っている。義父はナイフを持っていたのだ。
春子はそれを見て全身の力が抜けていく。
「虎将さん……そんな……いやあああっ!」
悲鳴のような声を上げ、虎将に駆け寄ろうとするも、後ろから陽太に止められた。
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