26.守る手

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「だめです、春子さん!」  虎将の顔が苦痛に歪み、春子を見た。 「……はやく行け!」  目には涙が滲んでいく。好きな人が血を流しているのに、放っておけるわけがない。 「いやです、虎将さ」 「陽太っ! はやくしろ!!」  虎将は苦しそうに、切羽詰まった声を上げる。 「は、はい!」 「春子さん、はやくこっちへ!」  春子は陽太に引きずられるように車の中に押し込まれる。  はやく逃げなければいけないのはわかっている。一刻もはやく立ち去らなければ虎将たちの邪魔にもなる。頭ではわかっていても、心と身体が言うことを聞かない。虎将から離れたくないと叫んでいる。 「虎将さん、虎将さん……っ!」  陽太は素早く運転席に乗り、車を発進させる。  春子は泣きながら何度も虎将の名前を呟いていた。  もう二度と彼と会えないかもしれないのだ。  涙がとまらなかった。
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